忍者ブログ

2025-07-20 04:42

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2009-11-18 20:14

追憶を裁く/後編

『追憶を裁く』のさらに続編です。これで終わり。
―――――――――――――――



ユーリが受け止めた刀を後方へいなし、右足を深く踏み込みながらなぎ払う。
しかし”彼”は、その攻撃髪を数本切られながらも回避すると、あっさりと後退した。



両者の間に、再び距離が生まれる。
それは仲間達の心を深く安心させた。
詠唱を中断させられたリタには大きな隙が生まれていたし、ジュディスやレイヴンの回復に専念することも出来る。
何より、あのまま二人―――と言うのは少々語弊があるのかもしれないが―――の一騎打ちになっていれば、恐らくユーリも無傷では済まなかったろう、という不安があったからだ。




「―――ジュディス、レイヴン。平気か」




ユーリが鋭く前方を見据えたまま、傷ついた仲間に声を掛けた。
二人はもちろんだ、とばかりに立ち上がる。
エステルも術式を止め、ワンドを手に取った。




「大丈夫だ、下がってろ。・・・・・・こいつは俺が、殺してやる」




殺す。
ユーリは再度、殺意を口にする。



しかしこの時、それを知る術は確かに無かったが、既に遅かった。
遅すぎたのだ。



ユーリは”彼”を殺すべきだった。



ただ、もっと早くに、殺すべきだったのだ。



刃を抜いたその刹那に。
存在を認識した瞬間に。
絶対的に、殺しておくべきだったのだ。



――――――”彼”の言葉を、聞く前に。



「おい、おい、おい。さっきから聞いてれば・・・・・・よう、”俺”。お前はいつから自殺志願者になったんだ?」
「ぁあ?」
「な、何? 何言ってるの・・・・・・? この人」




刀を左手で弄びながら、唐突に紡がれたその言葉に、思わずユーリは聞き返した。
幼いカロルが、不安げに眉を寄せたまま、疑問符を発する。




戦うことに対するものではない、正体の掴めない恐怖が、仲間達の心の底から湧いてくる。
そして本能が、掠れた、聞き取りにくい声で警告する。




駄目だ、ユーリ。
聞いてはいけない。




「カロルまでそんな事言うのか? 他人行儀だな、いくら俺でも傷つくぜ?」




もはや誰も口を開けない。
その沈黙が、”彼”の言葉を促してしまうというのに。
心だけが、頭とまったく繋がってくれない心だけが、警鐘を鳴らし続ける。



―――聞くな!




「俺はお前でお前は俺なんだぜ。言ってんだろ? ”よう、俺”、ってな」




俺という存在はお前自身。
つまり俺を殺すという事は自分自身を殺す、つまり自殺に値するという事。




理解できない訳ではない。
”何を言っているのか”という事は判る。
だがそうではない。
彼らが感じている恐怖は”そんな事”ではない!




「それは違う」
「違わねぇよ」
「違う! お前が”俺”ならば、どうして俺たちに剣を向けた!?」




ユーリの声が震える。
この場に淀む恐怖を、今最も感じているのは彼だった。



「非道い誤解だな、”俺”。お前にはだから、剣なんて向けていないだろう? 俺が殺そうとしたのは”お前以外”さ。けれどそれについて何故と言うなら、それは簡単だよ。”お前が、そいつらを殺したがっているから”だ」
「有り得ないッ!」
「有り得なくないさ! 奴らは悪だ!」




ユーリの額を、頬を、冷や汗がとめどなく流れ落ちる。



有り得ない。
彼らは仲間だ、守るべき大切な者たちだ。
己が殺す訳が無い。
そんな事を、思う事すらある筈が無い。




「害なる悪は例えそれが誰であろうと殺す! そうだろ!? 魔導器を狙う破壊者! 世界の調和を乱す異端者! 信頼に仇なす裏切り者!」




どいつもこいつも悪ばかり!
生きているにも値しない!




「・・・・・・不義には罰を。俺はそれに従ったまでだぜ」




―――絶句。



この状況を言うならば、正にその言葉が相応しかった。



ユーリの荒い息がこだまする。
硬く握られすぎた刀がカタカタと鳴る。
歯が噛み合わない。




「ユ、」
「違う! 俺はそんな事を考えたことなんて無い!」




名を呼んだエステルを制止して、ユーリが叫んだ。
その表情は、困惑、恐慌、焦燥、それらに支配されており、完全に平静を失っているのが判る。
どんな状況下においても冷静さを失わず、常に一歩引いたところから事実を見極めていたユーリ。



普段の彼からは想像すらも出来ない表情だった。




「”考えた事なんて無い”? それは言葉遣いがおかしいぜ、”俺”。いいか? 今のを判り易く言い直してみるぞ?」




”ユーリ”が大仰に手を広げ、よく聞こえるように声を張る。




「俺の信念は思いを貫くことなんだ! そう! 俺の信念は思いを貫かないことなんだ!
 ―――な? 馬鹿っぽいだろ? 矛盾してるぜ。・・・・・・”俺”がそうだと言っているんだから、そうなんだよ」



あんまり馬鹿な事言わせないでくれよ。
そんなキャラじゃないだろ?




「違うッッ!」




ユーリの糾弾の声。
その響きは、もはや悲鳴との違いが判らないほどだった。




「悪も死ぬべきもお前だ! お前の言葉には何一つとして真実など含まれていない!」
「はぁ。まったくお前は俺を否定してばかりだな。これは映し出された自問自答。俺を拒絶する事は自分を拒絶するって事なんだぜ? 判ってんのか?」




ユーリの足が地面を蹴り上げる。




「う」




疾走、接近、刃を振り上げる。




 「るさ」




”彼”は逃げない。




  「―――い!」




・・・・・・仲間たちには、ただ見ていることしか出来なかった。



ユーリの突き出した凶刃が、”ユーリ”の左手を切断。
刀を握ったまま、上腕から先が血飛沫を上げて落下した。
”彼”の顔が苦悶に歪む。




「ううううう! お、俺を悪だと責めるなら、それはお前自身に跳ね返る言葉の刃だ! 俺が悪ならお前も悪だ! ラゴウを殺しキュモールを殺し、その上”俺”まで殺すのか!」
「煩い!」




ユーリが、返す刀で腹部を貫通。
冷たい金属で乱雑に内臓を突き破られた”ユーリ”が激痛に絶叫。
崩れ落ちるように倒れた。




「しょ、所詮こここれが、お、おま、お前の真実だだ! 相、手に何の猶予も選択、も、あたあた与えず、ただ殺す! 忌まわ、しい、殺人鬼め!」
「煩い!!」




既に緩慢に死に向かうのみの命に、ユーリが剣を突き立てる。
執拗に、何度も何度も、肉を抉る。




「煩い! 煩いッ! 煩いッッ!」




”ユーリ”は尚も言葉をつのったが、口から出るのは、喉で血の泡立つ不快な音だけだった。
完全に停止し、痙攣すらも治まったそれは、既に肉塊と化している。
しかしユーリの、”ユーリ自身”に対する断罪は止まらない。




「―――ユーリ! ユーリもういいっ」




武器を捨てたレイヴンが、振り上げられた腕を止める。
びくり、と肩を揺らしたユーリが、そろそろと振り返る。



顔は返り血で濡れていた。



呼吸は乱れ、喘鳴が聞こえる。



瞳は惑い、揺れていた。




「・・・・・・―――、あ」




ぽろ、と右目から、唐突に一粒の涙が零れ落ちる。
レイヴンは瞬間的に、考える暇も無く、その痩身を力の限り抱きしめていた。



逞しい腕の中で、ユーリは眠るように、ゆっくりと意識を手放した。



・・・・・・・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・。















―――――――――――――――
終わってしまえ!
ユーリを糾弾させたかっただけなんですが、ユーリを糾弾するならユーリしないねぇかな的な・・・・・・
何か、いつもクールなユーリも、自己嫌悪とかを感じてるんじゃないかなとか・・・・・・
一応続きも考えてはいるんですが、とりあえずここで切りました(汗)
しかし続くのかこれ・・・・・・
PR

この記事にコメントする

Name
Title
Mail
URL
Comment
Pass
Pictgram
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

この記事へのトラックバック

トラックバックURL

カレンダー

06 2025/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

カウンター

バーコード