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2010-02-27 21:58

リクエスト小説







――――――――――――





例えば、デュークの手に握られている、宙の戒典のような。



媒体を介さないエアルクレーネの鎮圧を、一体幾度繰り返しただろうか。



その行為の代償として、明らかに疲労と消耗を強いられているようだったが、皮肉にも世界を救うため、もはや数少
ない始祖の隷長たちには精霊への転生を求めているために、ユーリの行動には重要性がますますと増すようになった。
仲間たちがその負担を気遣い止めるようになると、今度は夜中に抜け出すようになった。



世界を満たすエアルの調律は確かに必要だが、完全でない、加えて成熟もしていないユーリにはあまりにも重荷に過ぎる役目だった。



そしてある日の午後。



疲労と重圧を押し殺し、忙しい旅の合間にあってその強行を続けた当然の帰結として、ユーリは倒れた。










ポーカーフェイスもここまで来たかと、レイヴンは歯噛みしたい思いだった。
それほどまでにユーリは普段通りで、倒れたときに高熱を出していたにも関わらず、仲間たちにはほとんどそれを悟らせなかった。



唐突に訪れたユーリの異変に慌てふためき、とにかくも近くの街の宿へ運びこんだのが、数時間前のことである。
ただの過労である可能性もあるが、万が一があってはいけないとジュディスはリタやエステルと共にミョルゾへと
赴き、カロルとラピードは薬や食料の調達へ。



そうしてユーリの側には、自ら名乗り出たレイヴンが残っていた。




「ユーリ・・・・・・」




はっはっ、と浅く短い呼吸を繰り返すユーリの汗を拭ってやり、小さくその名前を呼ぶ。



運び込んだときに測った時点で、熱は四十度を超えていた。
急激過ぎるし、高熱過ぎる。



レイヴンは、悔しさに拳を握り締めた。



ユーリの異変を見抜けなかったことに。



そして、ユーリにそれを、一人で背負わせてしまったことに、だ。



最近のユーリは、以前にも増して心の内を隠すようになってしまった。
他者と己との間に溝を掘り、それを越えようと、越えさせようとしない。



―――俺が人間だから、いけないのか。



レイヴンは思う。



俺が人間だから、ユーリの苦しみなど痛みなど、理解できないと思っているのか。
それとも己が人間ではないことを恥じているのか。



馬鹿な。



始祖の隷長は世界を律し、神を連想させるほどに美しく長寿で、強大な力を秘めた存在だ。
その身に驕ることはあっても、引け目を感じる必要など無いではないか。



・・・・・・折角、アレクセイという鎖から、死人であろうという自己暗示から、抜け出せたところだったというのに。



何もかも吹っ切り、この青年に思いを伝えようと、この臆病な心を決めさせることが出来たのに。



今度はユーリ自身が、それをさせない。



これほどに口惜しいことがあろうか。




「は・・・・・・あっ・・・・・・!」




ユーリの苦しげな声で、レイヴンがはっと思考の海から意識を浮上させる。



いけない、今は己の勝手な思いで懊悩している場合ではないのだ。
とめどなく流れる汗に、脱水症状を心配して、冷たい水でも飲ませてやろうとレイヴンが席を立つ。
しかしそれを、熱に火照ったユーリの腕が阻んだ。



熱いユーリの左腕が、レイヴンの右手に力なく、縋るように掴む。



驚きと、そして場違いであるかもしれないが喜びで、レイヴンの動きがびたりと止まった。
見れば、意識は未だ朦朧としているようだが、確かに目を開けたユーリが、その潤んだ瞳でレイヴンを見つめている。



ああ、こんな時でさえ、この青年は己の心を引き寄せてやまない。




「ユーリ、水を持ってくるから―――」
「いい」




手を離してと続けようとしたレイヴンの言葉を、ユーリの短い言葉が遮る。
もう喋ることさえ体力を消費するはずだが、それでもユーリは絞るように声を出した。




「いい、んだ・・・・・・水なんか、いいから。ここにいてくれ」
「ユーリ」




たまらずレイヴンが手を強く握り返し、ユーリの枕元に顔を寄せた。



空いている左手で、ユーリの赤い頬を撫でる。




「大丈夫・・・・・・。俺はユーリが望む限りずっと、側に居るから」
「ん・・・・・・」




薄く唇を開き、ふわりと綻ぶように笑うユーリに、レイヴンはほとんど衝動的に、唇を重ねた。



起きたとき、覚えてはいないかもしれない。



それでも良かった。



ただ無償に彼に触れたかった。



その熱を感じたかったのだ。




















「ユーリ、僕たちほんっっっとに心配したんだからね!? ほんとだからね!? もう絶対、無理しないでよ!」
「判ってるよ、カロル。ジュディたちも、面倒掛けて悪かったな」
「あら、いいのよこれくらい。貴方のためだもの」
「もちろんです!」
「ま、結局ただの過労だったんだけどね」




ジュディスたちの言うとおり、一時は酷い高熱だったが、この数日でようやく治まり、ユーリの具合はすっかり良くなっていた。
宿を引き払いながら、仲間たちが安堵の笑い声を上げる。



その背中を見つめながら、ところで、とユーリが振り返った、




「・・・・・・何でおっさん、俺の手握ってんの?」
「えー?」




しっかりと握り締められた左腕を刺しながら、ユーリが問う。
レイヴンはと言えば、上機嫌で握った手を振っていた。




「何ようユーリちゃんてば。本当に一昨日のこと覚えてないの?」
「一昨日のこと?」




ユーリがはてと首を傾げる。
そのときユーリは四十度を超える熱にうなされていたのだから無理も無いことなのだが、レイヴンはにやりと笑って
口を耳元に近づけた。



低く落とした声音で、ユーリの耳朶に直接声を送り込む。




「俺の手握って、離れたくないって縋ったくせに」
「・・・・・・・・・ッ!」




ユーリの頬がかあっと熱を持つ。
そして数秒のタイムラグの後に、ようやく自分が口走ったことを思い出したのか視線を不安定に揺らし始めた。




「え、あ、それは・・・・・・!」
「何? 恥ずかしがることないじゃない。―――ずっと側に居てやると言っただろう?」




限界のようだった。
どん、とレイヴンを突き飛ばすと、ユーリは顔を真っ赤に染めたまま仲間たちの元へと走り去ってしまった。



レイヴンはしばらく残念そうに右手をさすってから、そして笑った。



始祖の隷長もエアルも、もう関係ない。



彼は人間だ。



少なくとも自分たちとこうして笑いあっているとき、彼は人間なのだ。



ならば、もうそれでいいではないか。




「オンッ!」
「はいはい、今行くわよ」




急かすように吼えるラピードに答えて、レイヴンは足を踏み出した。
















―――――――――――――――
司様!
この度はリクエストして頂き誠にありがとうございます!
こんなものでどうでしょう!(汗)
激しく燃えるシチュエーションだったのですがそれが生かし切れたかどうか心配です!
が!喜んでくだされば幸いです!
もう本当、私怪我とか大好きです。
倒れちゃうとか愛してます。
なもので楽しみすぎてしまってイメージと違うものになってしまっていたら激しくすみません!
それでは重ね重ねありがとうございました!
これからもこんなサイトをよろしくお願いします!

                 




 

 

 

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