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2010-02-27 21:56

リクエスト小説







――――――――――――





それは闘技場都市、ノードポリカでの事だった。
始祖の隷長の精霊化を進めるため、エレアルーミン石英林に向かおうと、今後の指針が決まった時だ。



バウルにとって人間の街は狭すぎる。
そのため結界魔導器の円から抜ける必要があるのだが、その時になってユーリがきょろきょろと辺りを見渡し始めた。



まるで何かを探しているような仕草だった。
一人歩き出そうとしないユーリに気付き、レイヴンが声を掛ける。




「青年? どったの?」
「ん・・・・・・」




ある一点―――南の方向だろうか―――を凝視し始めたユーリに皆も気付き、振り返る。
ぱち、と一つ瞬きをして、ユーリがようやくレイヴンたちに向き直った。




「悪い、ちょっと宿で待っててくれるか? すぐに行くから」




何かを隠すように苦笑するユーリに、仲間たちの表情が一様に訝しげに歪んだ。




「理由を、聞いても良いかしら?」
「・・・・・・別に、大した用事じゃねぇよ。本当にすぐ戻るから」




詮索を拒むような態度に、ますます仲間たちの表情は曇る。



元より秘密主義的な面のあるユーリだが、ここまであからさまに拒まれると面白くない、というのが一同の心情だ。



大した用事ではない、と彼は言った。



これはユーリにしてはあまりにも拙いはぐらかし方だ。
星喰みが現れ、事態はもはや国だ魔導器だの問題ではなくなってしまったのだ。



世界が存続できるか否か。



全世界の人間の命運を握っていると言い換えても良い。



そんな中で、誰よりもその重要性を理解している筈のユーリが、”大した事ではない”用事で、出発を遅らせる訳がないのだ。
当然、誰一人納得しなかった。




「大した用事じゃないなら、私たちもついて行って構わないわよね?」
「おっさんはユーリのものなんだから、一緒に居てくれないと困るわよぉ青年」
「わ、私も行きます!」
「僕も! 凛々の明星はどこだって行くんだから!」




言外に単独行動は許さない、という固い意志をうかがわせる言葉に、ユーリが困ったような視線を向ける。




「ラピード・・・・・・」
「わふっ」




賢しい愛犬でさえ、どこへも行かせぬぞとばかりに体をぴっとりと密着させていた。
ユーリが息をつく。

「ほんっと馬鹿ねあんた。こーなったらいい加減に諦めなさいよ。ちなみにあたしもこっち側だからね。あんたを一人
にするつもりはないわ」




リタの言葉に、ようやくユーリは頷いた。




















「・・・・・・これが、目的だったのね」
「ああ・・・・・・」




目の前に広がるエアルの泉に、ジュディスが静かに囁く。
ユーリは短く頷いた。



そこはノードポリカの街の南へ進んだところにある、小さな森だった。
幾らか奥へ歩いたところで、エアルに敏感なエステルがはっとした表情を見せ、そうして姿を見せたのが、
このエアルクレーネだったのだ。



始祖の隷長の使命、だろう。



最近のユーリは、人間でない自分を認めたくない心と、その役割を全うしなければという使命感に板ばさみに
されているようだった。
仲間たちと離れ、一人でこれを成そうとしたのも、見られたくなかったためだろう。



刀をカロルに預けたユーリがエアルにあまり近づかないよう言い、その姿を黒い龍へと変じさせる。



人である身から見れば異形であるはずのその姿を、けれど皆はしばし見蕩れた。



「ユーリ・・・・・・大丈夫なの? 怪我もまだ治ってないのよ」
「大丈夫だよ。・・・・・・すぐ終わらせる」




エアルの海に身を浸すユーリに、レイヴンが声を掛けた。
そう、目まぐるしい日々に追われて時間の感覚が狂っているが、アレクセイとの戦いから幾日と日は経っていないのだ。
ユーリの右腕には未だ痛々しい包帯が巻かれているし、始祖の隷長としての姿をとっている今も右半身の鱗は完全
には再生しきっておらず、生身の肉が見えてしまっている。



それでもユーリは、レイヴンの言葉に緩く頭を振った。



見守る仲間たちの前で、ユーリがエアルクレーネを鎮めてゆく。
瞬くほどの間の出来事だった。



フェローやデュークのして見せたのと同じように、ほんの数十秒ほどで重苦しかった辺りの空気が正常に、
あるいは清浄に戻っていく。



神聖な儀式を、見ているような気分だった。


しかしそれを終えると、ユーリは苦しそうに喘鳴を漏らし、人間の姿に戻ったとき、彼は膝をついていた。
額には脂汗が浮かんでいる。




「ユーリ・・・・・・!」
「ユーリ!」




それでも、駆け寄る仲間たちに大丈夫だと笑顔を見せる辺りが気丈だが、やはり体に掛かっている負担は相当なようだった。
ジュディスが屈みこみ、ユーリの背中をさする。




「・・・・・・ユーリ、貴方は半分、人間のようなものなのよ。始祖の隷長として目覚めたのも最近の事。一度にこんな
に大量のエアルを取り込んでは・・・・・・」
『最もじゃ。クリティアの娘』




エステルが驚いて声を上げる。
頭に直接響いてくるようなその声の主は、やはりと言うべきかウンディーネだった。



エステルの呼びかけに答える形でなくその姿を見せることは珍しい。
やはり彼女も、同じ種として彼を案じているということだろうか。




『幼く異端な我が同胞よ。エアルの調律はわらわたちですら大きな負担を伴った。決して無理をしてはゆかぬぞ。
そなたの身を案じる者たちもいるのだから・・・・・・』




労わるようにその体を撫で、それだけを言うとウンディーネは消えていった。










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