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2009-11-18 19:46

月の下の密会


レイユリ。キャナリの弓について。シリアス。


丑三つ時も過ぎた頃。



暗闇に生きる生き物たちが、時折閃いたように鋭い鳴き声を発する以外は、静寂という名の魔物に飲み込まれているのかと、錯覚しそうなほどに静かな夜。
ダンッ、という何かを穿つ様な音に目を覚ましたユーリは、他の皆を起こさないよう、衣擦れの音すら絶って立ち上がった。



ここ数日は強行軍が続いており、疲れも溜まっているということで、少々値は張るが見張りを立てる必要のない、簡易結界の中で一行は野営をしていた。



深い眠りに落ちる仲間たちの中に、レイヴンの姿が見えない。



いくら結界の中とはいえ、何時何が起こるか判らないため、最低限の警戒はしておこうと刀を持ち、いつでも反応できるように座り込んだまま、ユーリは休んでいた。
手に持っていたままだった刀が鳴らないように気をつけ、テントを出ると、外で寝ていたラピードが耳を
ぴくりと動かしたが、それ以上の反応はしなかった。



夜更かしも程々にしておけよ、と暗に言われた気がして、ユーリは苦笑する。
彼は自分のことを、あまり心情や行動を、相手に悟られないタイプだと思っているが、この毛むくじゃらの相棒にだけは、ユーリは何かを隠し通せたことが無かった。



森を少し進むと、木の幹に向かって弓を射る、レイヴンの姿が見えた。
体の線を隠す羽織のおかげで見えはしないが、その下で厚く堅い筋肉が収縮しているのが判る。
いつもの飄々とした表情ではなく、凪いだ瞳で先を見つめるその姿に、一瞬、目を奪われた。




「―――おっさん。こんな夜中に何やってんだ」
「・・・・・・あら、悪いわねぇ青年。起こしちゃった?」




声を掛けてから、いつもの気の抜けた返事が返ってくるまで。
数秒のタイムラグがあったことに、気付かないユーリではない。




「別に、外の空気が吸いたくなっただけだよ。―――その弓、キャナリ、って人の?」
「ああ・・・・・・まあ、おっさんにはちょいと、出来すぎた獲物だからね。軽く練習でもしとこうかな、ってね」




たまにはおっさんも殊勝なコト言うでしょ? と、レイヴンはにへらと笑った。
その手には、先日思わぬ相手から譲り受けた、レイヴンの過去の思い人の遺品が握られている。



名弓ディヴァインキャノン。



柳の枝のように細く白い弓幹はひどく脆いように見えるが、そこから撃たれる矢は大型の魔物ですらも一撃で仕留める。
それでなくとも、あの人魔戦争を戦い抜いた弓なのである。



弓と小太刀を使い分け、魔法すら併用して幅広い戦術を駆使するレイヴンには相応しいように思えるが、その弓の元の持ち主に対しても、それを手に入れた経緯に対しても、いろいろと思うところがあるのだろう。
しかし今、練習していたという割には、木の幹には点々と矢が刺さるのみであり、地面には角度と勢いが悪く、弾かれたらしき矢が数本、落ちていた。



百発百中のレイヴンには珍しいことである。
ユーリはけれど、さして追求はしなかった。
その目は、静かにレイヴンを見つめている。



「・・・・・・綺麗な弓だな」
「うん、そうね」
「触っても?」
「どーぞ」




軽く差し出されたそれに、ユーリは刀を木に預け、白い指先でそう、と触った。
先ほどこの弓幹を、柳のように白く脆そうであると比喩したが、今まさに、友の形見に触れるユーリの手こそ、レイヴンの目にはそう見えた。



剣を持ち、常に前衛で舞うように戦うユーリ。
しかしその手は白く細く、しなやかに伸びる指はまさに柳のようである。
白々とした光を無機質に放つ月の下では、それが更に強調されて見える。
レイヴンは眩しげに目を細めた。




「綺麗な弓だ」




滑らかな表面をゆっくりと撫でながら、ユーリが小さく繰り返す。




「でも、ただの弓だ」




続けられた言葉に、レイヴンの目が見開かれる。
ユーリの手が弓を離れ、黒く深い瞳がレイヴンを見た。




「レイヴン。何も知らない俺があんたに言うのは的外れかもしれないが―――」




呆然とするレイヴンの手から、ユーリの白い手が弓をそっと取り上げる。
ユーリは次いで地面に落ちている矢を何本か拾い、つがえて構えた。



「郷愁も思慕も後悔も―――所詮は過去だよ。テムザの山で朽ちた過去だ」




矢をつがえ、放つ。
名弓の名に相応しく、矢は音もなく弓を離れ、しかし深く木の幹を抉った。
腹に響く音が、夜の冷えた空気を振るわせる。
時々、ユーリという青年の言葉は、レイヴンの心をひどく深く穿った。



―――さながら矢のように。




「迷うなとは言えない。全て含めてあんたの一部だ。でもあんたの存在は、こんな弓一本に縛られているべきじゃない」




放った二本目は、目標を少し逸れ、幹を削るのみにとどまった。
ユーリは構えていた腕を降ろし、難しいな、と言って笑って見せたが、レイヴンはしばらく応えられないでいた。
月の光のみが頼りの、暗い森の中でも、ユーリの姿だけははっきりと目に捉えることが出来る。



闇の中にも浮き上がって見える艶やかな髪。



ぼんやりと発光するかのような、白い肌。



そして何よりも、柔らかくレイヴンを見据える、紫黒の瞳。



レイヴンは意図せず、そのすべらかな頬に手を伸ばしていた。
レイヴンも自身も、その行動に驚いたが、ユーリは拒まず、触れる手に自ら頬を寄せる。















どれほどそうしていただろうか。
レイヴンはユーリから離れると、首に手を置いてはぁ、と長い溜め息を吐いた。




「ダメねぇおっさん。また励まされちゃった。・・・・・・あんがとね」
「別に? どういたしまして」




くっく、と笑うユーリに、レイヴンも頬を緩ませた。




「それにしても青年、弓まで出来るなんて聞いてないわよ? ただでさえ馬鹿強いのに、これじゃーおっさん形無しじゃないの」
「こんなモン、おっさんの足元にも及ばねぇだろ」
「えー! そんなコト言われるとおっさん照れちゃーう!」




軽口を装ってユーリに抱きつきながら、レイヴンはこの愛しい温もりを、今度は二度と手放すまいと、光る白弓に誓った。














―――――――――――――――

要するにおっさんの支えになってるユーリが書きたかったんです・・・・・・
実際、あのメンバーってもうユーリなしじゃ生きられないですよね。
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