2009-11-18 19:52
レイ→ユリ←フレでいがみ合い。うちのレイヴンとフレンは基本仲は悪いです。
「ッッさいわねぇ! このおっさん! じじい!」
「ヒ、ヒドい! じじいはヒドいわよリタっち!」
港の街 『カプワ・トリム』
騒がしく絶えることの無い喧騒に、少女の怒号とおっさんの悲鳴という、何とも微妙な組み合わせの喊声が混じる。
微妙な組み合わせ、とは言えそれはもう旅の仲間たちにとっては日常茶飯事と言えるほどに見慣れた光景である。
もう数分も放置すれば、そこに新たに爆発音が響き渡ることだろう、ということも用意に想像できた。
どうせ発端はレイヴンのからかい言葉だと推測できるので、同情は出来ないが。
エステルが下手に宥めようとして、火に油を注いでいるのがユーリ達の目に映る。
おっさんも懲りねえなぁ、と嘆息していると、任務の途中で立ち寄っていたと言うフレンが、苦笑しながらユーリに近づいた。
「あはは・・・・・・彼らはいつもああなのかい、ユーリ?」
「まぁな。見てるこっちは飽きねぇけど―――」
ユーリとフレンの目の前で、リタのファイアボール―――流石に手加減はされているだろうが―――が炸裂する。
案の定な展開に、ユーリが小さく笑った。
「熱ちち・・・・・・んもう! 青年てば! 見てたんなら止めてよね!? おっさんの渋い髪の毛がアフロに
なったらどうするつもりよ?」
「いいじゃねぇか。男前が上がって」
「そんなことない、そんなことないもんっ」
レイヴンの抗議に、けらけらと笑いながら軽口を返すユーリ。
そんな親友の姿を見ながら、フレンは複雑な心境を抱えていた。
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カプワ・トリムの港町も、夜になると昼間の騒々しさを潜めて眠りにつく。
あらゆる品物と人が流れ込み、そして出て行く『港』という場所に住む人々は、仕事と海に生きている。
太陽が帰ってきたとき、誰よりも早く起きて動き出すためにも、この街の眠りは常に迅速なのである。
そんな人通りの途絶えた橋の上に、二つの影があった。
「―――こうして話すのは初めてですね、シュヴァーン・・・・・・いえ、レイヴン、さん」
「そうねぇ・・・・・・で、用ってなぁに? おっさんとしても、こうして栄誉ある騎士様と語らうのはやぶさかじゃあないけど・・・・・・
時間も時間だし、早くしてね? 青年が心配しちゃうから」
くあ、といささか下品な欠伸をもらしながら、レイヴンが言う。
今、この二人がここにあるのは、他でもないフレンが希望したからであった。
夜、宿屋で休息を取っていたレイヴンに、話がある、とわざわざ出てきてもらったのだ。
やだ、団長さん自ら呼び出しなんて怖いわぁ、などと嘯いていたレイヴンであったが、別段拒みはしなかった。
ユーリに関する事であろうと、判っていたのだろう。
レイヴンやジュディスは、フレンのユーリに抱く思いを理解しているし、悟られていることをフレン自身も知っている。
牽制になればと、あえて隠しもしなかったのだが・・・・・・。
そう、胸の内で考えていた時のレイヴンの台詞に、フレンの眉がぴくりと動く。
”青年”というのは、言うに及ばずユーリの事である。
もとよりあのメンバーに、成人した男性はユーリとレイヴンしかいないのだ。
「心配・・・・・・ですか。随分と、仲が良いんですね」
フレンがレイヴンを呼び出すとき、ユーリは不可解そうな顔をしていたが、深くは聞いてこなかった。
無遠慮に詮索するのを控えたのだろうが、フレンはそのことに、胸の内で安堵していた。
呼び出した理由を、上手く説明できそうになかったからだ。
フレンの言いように、レイヴンの目が細められる。
「えらく含みのある言い方だわね・・・・・・もっと直球で来たらどう? 俺が、レイヴンが、あの子の隣にいるのが不満だって、さ」
「貴方は・・・・・・ッ!」
それまで笑みを崩さず、極めて温和に話していたフレンの雰囲気が豹変した。
固く握られた拳が欄干を殴り、金属製の篭手とぶつかって硬質な音を響かせる。
普段温厚な彼からは想像できないほど、その表情は歪んでいた。
否、昔から、フレンはユーリが絡むといつもこうであった。
心の底から湧き上がる、独占欲や愛欲、焦燥などがどろどろと混じりあった激情を、コントロール出来なくなるのだ。
―――今のように。
「貴方は一度ッ・・・・・・! ユーリの心を傷つけた。最悪の方法で!」
それが何を指しているのか、わざわざ口に出して確認しなければならない間柄ではない。
レイヴンとしては、偽者の心臓が痛むほど、痛い糾弾の言葉だったが、その瞳は揺らがない。
「あの時は・・・・・・ああするしかなかった。許してもらおうとは思っていない。けれどユーリは受け入れてくれた。命を預かると、言ってくれたんだ」
「それはユーリが優しいからだ。ユーリは”身内”にはどこまでも甘い。貴方はその心臓を理由に、彼を縛り付けているだけだ!」
「彼の俺に対する心情が、そんな安っぽい同情だとでも? 君は存外、ユーリの事を知らないんだな」
「何をっ・・・・・・!」
レイヴンの挑発に、フレンが歯をかみ締める。
レイヴンの眼は、常に無い冷淡さと、そしてここにない彼に対する熱が篭っていた。
今の彼ならば、シュヴァーンと呼んだほうがしっくりとくるだろう。
「では、ザウデ不落宮での事は? 貴方が付いていながら、どういう失態ですか」
「・・・・・・それについては、言葉も無い。だが、それはそれはあの時あの場にいなかった、君に対しても言えることだろう。それに」
あんな事はもう、二度と起こらない。
低く続けたレイヴンの言葉の、言外にユーリは自分が守るという意図が見える。
しばらく、両者の睨み合いが続いた。
もはや二人を包む空気は氷点下まで下がっており、鳥ですら彼らを避ける。
「・・・・・・貴方に、彼の何が解っているのですか。そうやって彼に寄りかかっていればさぞかし楽な事でしょうが・・・・・・。貴方じゃ、ユーリを支えられない」
「では、お前ならば支えられるのか? 既に道を別ち、彼の隣にすら立っていられないのに?」
「そばにいますよ。僕らはいつも、互いを近くに感じられる」
「とんだ自惚れだ」
近くにいたい。
頼られたい。
けれど。
そばにいれない。
支えられない。
それはユーリに関わった誰もが思うこと。
意識的に、無意識に、人を救いながらしかしユーリはいつも孤独だった。
彼は自分を、自分の進むべき道は闇だと信じ、誰かと共に歩こうとしない。
構わないのに。
それどころか、誰もが彼に道連れにされることを望んでいるのに。
彼はそれに気付かない。
否、気付かない、ふりをしているだけ、なのかもしれない。
フレンは握ったままだった拳を解き、落ち着くように二、三度深く息を吸う。
「何とでも。けれど彼を守るというなら、それは僕からもお願いしたいと思っていたところです。僕は、いつもユーリと一緒にいれるわけではないから・・・・・・その間、僕の代わりに、ユーリを守っていてください」
「代わり、ね」
鼻で笑ってみせるレイヴンを無視し、フレンが続ける。
「けれど、この位置を、この距離を渡すつもりはない。ユーリに一番近いのは僕だ。ユーリを一番理解しているのも僕だ。それはこれからも変わらない。変えるつもりはない」
「考えるのは自由だからな、好きにすればいいさ。―――俺も、ユーリを渡すつもりは無い」
ユーリが自分を影だと、闇だとしてしまっているのなら、自分は彼だけの光となって、共にあろう。
それが、対立する二人の、唯一共通の想いだった。
――――――じゃ、冷え込んできたし、おっさんもう帰るわぁ。
と。
一瞬で表情を、いつもの飄々としたものにすり替えたレイヴンは、にぃ、と最後に攻撃的な笑みを向けて去って行った。
フレンもそれ以上は何も言わず、只管に冷えた顔でかつての隊長首席の背中を見送り、その場を後にする。
お互いの意思は明確すぎるほどに判ったのだ。
後は行動で示すのみである。
熱く、容赦の無い戦いが、およそ本人のあずかり知らぬところで始まってしまっていた―――。
くすり。
小さく、小さく偲ぶ様な笑い声が響く。
「ダメね・・・・・・ユーリに近づきたいと思っているのは、貴方達だけじゃないのよ?」
ここにもまた、彼を狙う妖艶な笑みの美女が一人―――。
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執着心丸出しな二人が大好き。
そこにさりげなく加わってくるジュディスが大好き。PR
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