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2009-11-18 20:00

暗がりに目を向ける/前編


題名そのまんまにユーリ失明妄想です。レイユリ。


「・・・・・・あ」
「どうかした、ユーリ?」




道すがら、魔物との戦闘後。
ぺたぺたと目元を触るユーリに、ジュディスが声を掛けた。




「あー・・・・・・いや、何でもない」
「そう?」




逡巡するように目を彷徨わせた後、ユーリは軽く首を振った。
口調もごく軽いものだったので、ジュディスも大したことではなかろうとその時は深く追求しなかった。
思えばこの時から既に、異変は始まっていたのである。




















学術閉鎖都市アスピオ―――




調べ物といえばアスピオ名物とも言える、あの広大な書庫であるが、体も休ませたいところであるし、ひとまず一行はリタの家へと向かった。



何しろこの街の宿泊施設といえば、そのほとんどが本棚を空けて作った物置のような所で、とても疲れを癒せるような環境ではないのだ。
寒くなくて雨にも降られない、という程度である。



リタの自宅へは既に何度か足を運ばせているし、何よりこの街で”変人学者モルディオ”の家といえば有名である。
迷うことなく足を運んでいく。



しかし交差路に差し掛かったところで、不意にラピードが低い鳴き声を上げた。
洞窟の中に造られた街であるので、ラピードの声というのはよく響く。



普段物静かで、有事の時以外には―――ユーリなどと”会話”する時は別だが―――滅多に鳴かな
いラピードが声を上げたことで、皆が何事かと振り向いた。
ラピードは何故か、アスピオに着く少し前から、最後尾を歩くユーリにぴっとりと寄り添っている。



―――蛇足だが、この『ラピードを振り返る』というのも、このパーティでは稀有な表現である。
彼はいつも、その凛然たる態度で皆の先頭を率先して歩くからだ。




「ユーリ? 今、ラピードが・・・・・・」
「ああ、いや・・・・・・何でもないんだ。気にしないでくれ」




魔導器の淡い光が照らす中、カロルが代表して問いを投げたが、ユーリは軽く笑って手を振るのみであった。
元よりラピードの言葉を正確に理解出来ている(と思われる)のはユーリとフレンくらいなのだから、そのユーリに「何でもない」と言われてしまえば、カロル達はその言葉を信じるしかない。



納得のいかない思いを残しながらも前を向いた仲間達に、ユーリが安堵する様子を、レイヴンが静かに見つめていた。















「はーっ、いつ来てもリタの家って、ごちゃごちゃしてて汚いよね。本だらけで・・・・・・って、痛!」
「うっさいわね! 学者の家なんてみんなこんなモンなのよ!」
「だからって殴ることないじゃん!」
「あら、今のはカロルの言い方が悪かったわ。彼女だってレディだもの」
「そうよねぇ、部屋が汚いなんて言われちゃったら、リタっちだって傷つくわよねぇ」
「べっ、べべ別にあたしはそんな―――」
「おー、リタ姐照れとるのう」
「ユーリ、どうかしたんです?」




賑やか―――なのはいつもの事だが、いつもならその中心にいるはずのユーリが、一人部屋の隅に外れているのを見て、エステルが声を掛けた。



ユーリはそんなエステルの声も聞こえていないのか、ぼんやりとした様子で一心にラピードの毛を撫でている。




「ユーリ?」
「え? あ・・・・・・どしたエステル」
「ユーリこそどうしたんです? 何か様子がおかしいですよ?」
「別に、普通だろ? ちょっとぼーっとしてただけだよ」




常より感情をあまり悟らせないユーリのことである。
もし本当になにかあっても、素直には話さないだろうと嘆息したエステルは、まずは自然な話題に持っていこうと、落ちていた本を手に取った。



それは、リタの家にあるにしては珍しく、一般向けの冒険小説だった。



偶然にもエステルが幼少の頃に呼んだ記憶のあるもので、いくつもの危機を乗り越える、主人公と仲
間たちの美しい絆が印象的な小説だった。



深い緑の表紙をそっと撫でる。




「この小説知ってます? 主人公たちが、ドラゴンが住むっていう未踏の森を探検するお話なんですけ
ど・・・・・・ちょっと、今の私たちに似てるんですよ」




本の、大まかなあらすじを話しながら、エステルの手袋越しの手がページをめくる。




「ほら、この冒頭のところなんか―――ユーリ?」
「あ、あー・・・・・・うん、そうだな。また今度、読んでみるわ」




話しているうちに本の内容を思い出してきて、自然と頬を緩ませるエステルに、しかしユーリは逃げるように腰を上げた。
流石に戸惑い、呼び止めるエステルの横に、いつの間にかレイヴンが並んでいた。
表情はいつもの、飄々としたものだが、比べて存外、真剣な声でユーリを呼び止める。




「ちょーっと待ちな、青年。お前さん、何か言ってないこと、あるんでないの?」
「おっさん、いつの間に・・・・・・」




驚いて振り向くユーリに、更に仲間たちの声が重なる。




「あら、それは私も聞いておきたいわ」
「何、あんたまた何か隠してんの? どうせバレるんだから、最初ッから言っときゃいいのに」
「僕も気になる!」




どうやらレイヴンの声が聞こえてしまっていたようだ。
まったく耳ざとい仲間たちである。



レイヴン然り、ジュディス然り。



このメンバーといると隠し事が出来ないな、とユーリは長嘆を吐いた。
人の些細な変化というものに敏すぎる。



まあそれはユーリ本人にも言えることなのだが、その辺りをユーリは理解していない。




「で、何を隠してるのかねぇ、青年?」
「あー・・・・・・まぁ、別に大した事はねぇんだよ。さっきからちょっと、さっきから目が見づれぇってだけの話で・・・・・・」
「何? はっきりしないわね」
「んー・・・・・・だから、ちょっとその、目がおかしいって言うか暗いって言うか・・・・・・」
「・・・・・・暗い?」




ぼそぼそと、ユーリにしては珍しく曖昧にぼかしたような言い方をする中で、何かを悟ったらしいレイヴンが低く反芻した。




「ちょっと、目がどうかしたのっ?」
「え? うーん・・・・・・いやそんな大袈裟なモンじゃ・・・・・・」
「はっきり言え!」
「見えません!」
「えっ、見えないの?」




レイヴンの詰問に、ユーリがとうとう、自身の状態を白状した。
それに思わずカロルが聞き返し、他の皆が呆然とする。



いつからだ。



ここに来るまでにも何度か魔物と戦闘になったし、街に着いてからも特にユーリから異常は感じなかった。
一体いつから?



それが、仲間たちの胸中であった。
レイヴンが、口調を厳しくしたまま問い詰める。




「いつから見えてない?」
「あの、何か・・・・・・蜂みたいな魔物と戦ってから、かな・・・・・・?」
「そんなに前から・・・・・・!?」




レイヴンが、呆れを通り越して絶句する。
視覚といえば、人の五感の中でもかなり重要な役割を持つ器官である。
それが、ぼやけるでなくぶれるでなく、”まったく見えない”となれば大問題である。



それをまさか、「そんな大袈裟な事ではない」と言ってくれたのだ、この口は!



エステルなどは、随分と前から「ユーリの役に立ちたい」と、明確な言葉で表しているというのに、ユーリは頑なとも言えるほど仲間たちを頼らない。
自分はその溢れんばかりの義侠心と包容力で関わる人全てを魅了してゆくくせに、こちらにはまった
く、それを返させてくれないのだ。



何て、狡い。




「本当に、まったく見えないのか? これが何本に見える」
「わ、判んない・・・・・・」




珍しく激昂するレイヴンに、ユーリがたじたじと答える。




「どうして言わなかったッ!」
「いや、放っといたら治るかなー、と・・・・・・」
「本当に、どうしてお前はいつもいつも・・・・・・っ!」




胸元を掴み、言葉を詰まらせるレイヴンに、ユーリは戸惑う。



ユーリの中で、自分自身の価値というか、優先順位が他に比べて凄く低い。
フレンなどがそれについて再三指摘しても、まったく改めようとしないのである。
今回のことも、もしこのまま本当に失明することになってしまっても、本人はあっけらかんとしているのだろう。




「おじさま、私も言いたいことは山のようにあるのだけれど、」
「山のようにあんのかよ・・・・・・」
「ユーリは黙ってて。―――今は治療の方が先だわ」
「ジュディ姐の言う通りじゃぞ! ユーリの体が最優先なのじゃ!」
「そうね・・・・・・魔物と戦った後に見えなくなったんなら、多分毒だわ。急がないと。・・・・・・もう、結構経ってる」
「わ、私の魔法で・・・・・・!」
「どっちにしろ、こんな強力な毒だもん。完全には治癒し切れないと思うわ。まずは調べないと・・・・・・」
「じゃ、じゃあ、とりあえず宿屋に行こうよ! ユーリを休ませないと!」




思案を広げる仲間たちに、カロルが力強く訴える。
確かに、毒だということはユーリは病人である。
治療するのにも、まずは落ち着くことが先決であろう。




「ま、待て。俺は別に―――」
「―――これ以上平気だとか何とか言ったら、おっさんホントに怒るわよ」




口調は戻っているものの、相変わらず硬い表情で告げられて、事実その通りに言おうとしていたユーリは、脱力して頷いた。














―――――――――――――――

続いちまった!←
使い古されてしまっているだろうかこのネタ・・・・・・
だがしかし盲目ユーリ激しく萌える。
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