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2009-11-18 20:32

想いを込めて


ソディユリに続いてヨーユリ(ヨーデル→ユーリ)。ちょっとフレンも。


―――――――――――――――



「ユーリ!」
「会いたかったです!」




星喰みの消滅から一年、あの頃とは比ぶべくもないほど大きく、立派に発展したオルニオン。
変わった街並みに、変わらない活気の溢れるそこに、凛と背筋を伸ばした青年と、可愛らしい少女の喜色の隠しきれない声が混じった。



フレンとエステルのものである。



この日は、定例的に行われている、ユニオン最高指導者と帝国君主、その他各有力者たちの談合がもたれる日だった。
まだ世界が魔導器というものに頼っていた時代に出来たにも関わらず、結界魔導器を持たないこの街で会合をもつことが、意味合い的にも丁度良いのである。



また世界各地の有力者が集まるためには、その護衛として大勢の騎士やギルド員も当然伴い、それもこの街の発展を大いに助ける結果になった。



ともかくも上記のような理由で、騎士団長であるフレンと、副帝たるエステリーゼもここオルニオンを訪れていたわけだが、着いて早々、二人が真っ先に行ったのは、街の視察でも宿泊場所の確認でもなく、想い人ユーリ・ローウェルに会いに行くことだった。
満面の笑顔で自分を見つめる二人に、ユーリは少々疲れたような声で言う。




「あのなぁ・・・・・・俺に会いたいと思ってくれんのは嬉しいけどな、何も着いて真っ先に来るこたねぇだろう」




長旅で疲れているんだから。
腰に手を当て、首を右にやや傾けながら言うユーリ。
その心遣いに、エステルは我慢できないと言わんばかりにユーリに抱きついた。



ああ、久しぶりの、本当のユーリだ! と。




「疲れてなんてないです! いいえ、さっきまでは疲れてましたが、今はもう疲れなんてどうでもいいんです!」
「意味が判らねぇよ」
「僕も疲れてるんだ。抱きしめてくれユーリ」
「意味が判らねぇよ!」




そうしてしばらく、暴れるユーリを心ゆくまでぎゅうぎゅうと抱きしめた二人だったが、満足するとようやく離れ、嘆息するユーリに笑いかけた。




「いや、でも本当に、ちゃんとした用事もあって、君に会いに来たんだよ」
「用事?」
「はい! ヨーデルが、ユーリに渡したい物があるそうなんです」




宿で待っているそうですよ、とエステルが続ける。



渡したい物?




ユーリが内心で疑問符を浮かべるが、あの皇帝が直々に手渡したいと思っている物なのだから、よほど大切な物なのだろう、と適当に考えて、頷いた。



例えば・・・・・・何だろう、まぁ判らないが。



会合は明日にも始まる。
早めに行っておいたほうが良いだろう。




「じゃあ、ちょっと行ってくるかな」
「僕たちは、凛々の明星の皆に会いに行っているよ」
「早く帰ってきてくださいね!」




背後から投げかけられる軽やかな声に、ユーリは軽く手を振って応えた。




















「御用があると伺って参りました。お呼び頂けて光栄です」




その口からはついぞ聞いたことがないような堅苦しい喋り方だったが、そう挨拶を投げて見せたのは紛れもなくユーリだった。
しかしその口調の丁寧さとは裏腹に、どこか楽しげな笑みを浮かべ、最敬礼の形をとってみせている。
そんな彼の相変わらずな姿に、ヨーデルは破顔した。




「やめてください、貴方らしくもない」
「ははっ、俺もそう思う」




ユーリは笑い、口調をすぐに元のものへと戻した。
部屋を見渡し、意外に地味だな、と声をもらす。



ヨーデルが宿泊している宿は、普段から旅人が利用する、ごく一般的な所だった。
部屋は流石に、広めのものをとっているが、内装はこざっぱりとしていて、豪奢なシャンデリアも無ければ、優美な絵画も飾られていない。



およそ皇帝が泊まるに相応しい部屋とは思えい。



これでは、護衛の騎士たちがぴりぴりするのも判るな、とユーリは呆れた。



何せ貴族御用達のホテルのように、襲撃や暗殺に備えた、頑丈な造りでもないのだ。
貸切にしているわけでもないので、他の宿泊客も当然ながらいる。
外で見張っている騎士たちは蟻一匹見逃すまいと目を皿のようにして警戒しており、近づいてくる人間がユーリだと判ると、あからさまにほっとした様子を見せるほどだった。




「落ち着いたとはいえ、今帝国は、いえ世界は、お金も人手も時間も、少しも無駄に出来ない状況ですから。それに、宿屋は体を休めるところです。眺めが良くて暖かいベッドがあれば、それで十分だと思いませんか?」
「正論だな」




感心して、ユーリはヨーデルを見た。
出会った頃から感じていたが、この皇帝は本当に、貴族生まれを疑ってしまうほどに人間が出来ている。
いや、それを言うならばエステルもか、とユーリは考えて、あの笑みを絶やさない少女を思い浮かべる。




「それで? フレンの奴から、俺に渡したい物があるって聞いたけど?」




ユーリが雑談もそこそこに、本題に入る。
まぁ、皇帝を相手に軽い冗談まで飛ばす人間などユーリくらいだろうが、それでもヨーデルは心なし、物足りなそうな顔をした。
ユーリは視線を逸らしていて気づかなかった。




「ええ。これです」
「! それは・・・・・・」




ユーリの紫暗の瞳が、差し出されたそれを凝視する。




「―――帯?」
「はい」




ヨーデルが取り出したものは、濃紅の、緻密に織られた帯だった。
その両端には、些細だが繊細で美しい装飾が施されており、一目で高価なものだと判る。




「貴方の使っていた剣帯が切れてしまったと、聞いたものですから」
「あー・・・・・・」




ユーリは、思い出すように視線を少し上げる。



確かに、ユーリが剣を持つときに―――少々使い方が違うが―――手に巻きつけていた剣帯は、少し前に切れてしまっていた。
仲間たちと旅をしていたころから使っていたものだし、純粋に寿命だったのだろう。
買いに行く暇がなくて、適当なもので代用していたのだが―――。



そこまで思い出して、ユーリは視線をヨーデルに戻した。



一体誰から聞いたのか。



いや、まあ確かに自分が欲しがっていたものではあるし、くれるというのなら喜んで頂きたいところではある。
しかし皇帝自ら直々に、それも翌日に各国首脳会合を控えた今日、その貴重な時間を削る理由としてはいささか役不足のように思えた。




「ご迷惑でしたか?」
「いや・・・・・・嬉しいよ。サンキュ」




ユーリは納得のいかないながらもそれを受け取る。
その硬く滑らかな手触りと確かな重さから、見た目ばかりの美しさではなく、実用的な頑丈さも兼ね備えていることを知った。




「でも・・・・・・これだけのために呼んだのか?」
「そうですね、実は建前です」
「建前?」




思いを問いの形で口にし、それに返ってきた不可解な言葉に、ユーリは首を傾ける。
そんなユーリに構わず、ヨーデルはユーリに更に近づくと、手のひらを水平にして、頭の上にかざして見せた。




「気付きましたか? 僕、最近少しばかり身長が伸びたのですよ」
「え? あ、ああ・・・・・・そういえば、そうだな」




言われてみれば、肩幅も、前に比べて少し、大きくなっている気がする。
しかし、あまりに唐突な言葉だ。
ユーリは面食らって、反応が遅れてしまった。




「その内に、貴方にも追いつけますね」
「身長が低いの、気にしてたのか?」




真意が量れずに、ユーリが相変わらず首を傾けたまま聞く。



この男は、そんな細かいところを思い悩むような人格であっただろうか、と。



それに、ヨーデルが優雅に微笑んだ。




「ただの、自己満足ですよ。貴方にキスをするとき、伸長差があってはやりづらいですから」
「え、」
「皇帝陛下ッ!」




ばあんッ!



突然に、まるで計ったかのようなタイミングで、そして実際に計ってやったのだろうが、扉が荒々しく開け放たれた。
ユーリが驚いて振り向くが、ヨーデルは残念そうな顔をするだけで表情を揺るがせない。



そこにいたのははたして、やはりと言うべきかフレンであった。




「フレン? お前、何でここに」
「ここは僕の私室ですよ、フレン。ノックくらいは、お願いできませんか?」




ユーリが口を開くが、ヨーデルがそれに被せるようにフレンを諭した。
フレンは額に汗を浮かばせ、肩を上下させ荒い息をついている。




「も、申し訳ありません・・・・・・。ただ、陛下にどうしても、火急に、取り急ぎ聞いていただきたいことがございまして・・・・・・」
「なるほど。それは何ですか?」




ヨーデルは笑顔を崩さない。
ユーリには何がなんだか判らない。
フレンはひとしきり呼吸を落ち着けると、ユーリに向かって常と変わらぬ爽やかな笑みを向けた。




「その前に、ユーリ。エステリーゼ様たちが痺れを切らしていたよ? 早く行ってあげてはどうだい? 僕もすぐに行くから」
「え? でもお前、今火急の用って」
「それはいいんだよ」




ほら早く、と急かされて、よく判らないがこの場から去ったほうが良さそうだ、という事は理解したユーリは、ヨーデルに今一度礼を述べて、その部屋から退出した。
開かれたときとは違い、静かに閉じられた扉を確認して、フレンがヨーデルを見つめる。




「何を考えておられるのですか、ヨーデル陛下・・・・・・」
「盗み聞きは感心しませんね、フレン」
「はぐらかさないでください」




冷や汗を流しながら、フレンが問う。



嫌な予感がしたから来てみれば・・・・・・。
頼むから、そうだと言わないでくれ。



そんな心情が、表情にありありと表れている。




「その通り、ですよ、フレン。僕は恐らく貴方の考えている通りのことを、そして、貴方と”同じこと”を考えている」




フレンが一瞬息を止め、そうして深く深くそれを吐き出した。
にこにこと笑みを絶やさない賢帝を苦々しく見やる。
舌打ちが漏れそうになるのを、すんでの所で堪えた。



この、腹黒貴族め!















―――――――――――――――
マイナーカプシリーズ第二段!(いつの間に)
いやでもヨーデルは確実にユーリに惚れている(決め付けんなよ)
あの出会いは美味しすぎる!
の割にはその後の絡みもあんまりないし、あっても何か始終シリアスな感じで終わっていったのでここで発散!
フレンとヨーデルで牽制のし合い!
萌える!
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