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2009-11-18 20:43

穏やかなる侵食/中篇


『穏やかなる侵食』の続編です。


―――――――――――――――



「栄養失調ですね」




白い、清潔なベッドに横たわる、意識の無いユーリを見つめながら、医師は言った。



つい数刻前、ユーリは唐突に、それこそ声も無く、倒れた。



焦燥、困惑、恐怖。
それらが混ざり合い一つになった複雑な感情が、皆の心を一瞬で塗りつぶした。



どうして。



どうすれば。



混濁する思考を振り払ったのは、ラピードの一喝するかのような吼え声だった。
こんな時仲間たちは、人間ではないこの者を偉大に思う。
どんな時であっても、彼は装飾にまみれた言葉や余計な思考を排し、誰よりも早く危険を察知する事が出来ていた。
彼の警告に命を救われたことは数知れない。
”その時”もまた、そうだった。
その空気を切り裂く、衝撃を振り払う声が無ければ、迅速に動くことが出来なかった。



レイヴンは、白い病室の壁にもたれたまま、拳を握り締める。



ユーリが倒れたとき、ラピードに諭され、彼を病院まで運んだのはレイヴンだった。
腕には、未だ彼を抱き上げたときの感覚が残っている。



―――軽かった。



あまりにも軽すぎた。



ユーリという青年が、長身ではあるが決して体格に恵まれた者ではないことは知っていた。



細い骨。



筋肉のつきにくい体。



それでも、その事実を考慮しても、抱き上げた体は意表を突かれるほどに軽かった。
開いた胸元から覗く、くっきりと浮き出た鎖骨に眩暈がした。



そういえば、もう何日も、ユーリが何かを口にしている光景を見ていなかった。




「なら、すぐに良くなるんですよね? きちんと栄養を摂れば・・・・・・」




エステルがすがるような表情で医師に言う。
それに対し、医師は言いづらそうにカルテに目を落とした。
レイヴンも、同じく視線を落とす。




「・・・・・・はい。必要な栄養を・・・・・・食事を取ることが出来れば、すぐにでも良くなります。しかし・・・・・・」




言葉が途切れる。
確かに、ただの栄養失調であれば、単に滋養のある物を食べ、しばらく休めば回復する。
だが、ユーリの場合は―――。




「彼には・・・・・・ここしばらく、何かを食べた形跡がありません。もしかすれば、という話ですが―――」




レイヴンには、その先の言葉が容易に想像できた。
そして出来れば、そうではない言葉を聞きたかった。




「―――彼は、拒食症である疑いがあります」




















気づいていた筈だった。



レイヴンは、病院の白い廊下を大またで歩きながら考えた。



気づいていた。



彼の戦闘スタイルが、ほんの少し、違っきていたことに。



大振りな攻撃。



常以上の体の回転。



それらは、体重の減少によって弱まった、握力や膂力を補うためだったのだ。
無意識にか―――いや、恐らくは意識して、だろう。



食事を取っていないのだから、自らの体重が減っていることに気づかないわけがないのだ。
そしてとうとう、自分の体を支えることすら出来ずに倒れるまで、彼は何も言わなかった。
レイヴンは、湧き上がる怒りと悔恨と、そして悔しさに歯噛みする。



何故言わない!



拒食症は心的な要因からくるものだ。



あれほど己を頼れと、黙すなと言っているのに、どうして頑なまでに心を閉ざすのだ!



エステルの死を否定し、亡者であった自分に生きる道を示しながら、一番死にたがっているのは己ではないか!



医師の退室後、ユーリは目覚めたが、仲間たちにどんなに説得されても言葉を濁すばかりで、結局果実を一切れ齧っただけで、また眠ってしまった。
思い出し、レイヴンはまたも腹立たしい気持ちが湧き上がってくるのを感じる。



体を起こすことも億劫なほど体力を減らしているくせに、口にするものが果実一切れとは!



憤慨しつつ歩を進め、やがて病室の前に辿り着く。
すぐには扉にてをかけず、気持ちを落ちつかせた。
仲間たちは、情報収集や、何かユーリに食べれる物を、と探しに出ているで、今この部屋の中にいるのはユーリだけの筈だ。
言いたいことは山ほどあるが、冷静さを欠くことはあってはならない。



呼吸を整え、しかし扉の向こうに感じる違和感に、レイヴンはいぶかしんだ。



いやに静かだ。



まだ眠っているのだろうか。



それにしても―――。



扉を開け、しかしその瞬間、レイヴンは紛い物である胸の心臓魔導器が、衝撃のあまりその鼓動を強める音を聞いた。
目に映る大きな窓。
そこから入る月光に照らされた白いベッド。
その乱れたシーツの上に、求めた姿は無い。



部屋は、もぬけの殻だった。




「あ、の―――馬鹿ッ!」




一も二も無く、レイヴンは駆け出した。
部屋の隅に立て掛けていた、彼の刀が無くなっていたのだ。
よもや散歩などということはない。
あんな体で、いったいどこへ。



レイヴンの痛烈な舌打ちが、夜の冷えた空気を震わせた。
















―――――――――――――――
テイルズの世界の病院って・・・・・・どんなんなんだろう。
病院といえばやたら白いイメージがあるんですが、テイルズの世界ってファンタジックだから、普通の病院みたいな
近代的なのが似合わない気がする。
でも新たに想像するのが面倒くさいのでそのままで!(どうせ大した描写も無いし!)
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