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2010-02-27 22:18

柔らかな殻/前編












晩冬二月。



情報屋、折原臨也は仕事をしない。



それは彼を頻繁に利用する者たちにとっては周知の事実であり、暗黙の了解となっている。



そして今日。



年を越しての、最初の月が終わる日。



臨也は、秘書である矢霧波江に、一か月の暇を出した。




「・・・・・・私、何かしたかしら? それは不手際とか、貴方の機嫌を損ねるといった意味でのことだけど」




波江が腕を組み、こめかみに中指をあてた格好で言う。
目を閉じているのは、己のこれまでの仕事内容を思い返しているためだろう。



臨也は小さく笑った。



完璧主義の波江が、これまで仕事でミスをしたことはない。
それは臨也が彼女を雇い入れてから数えて、である。



彼女自身も理解しているだろう。
訝しげな表情はその為だと容易に想像がついた。




「まさか。君のこれまでの仕事は完璧だったよ。初めて触れる筈の仕事に対する適応力も理解力も、その後の応用力も申し分無かった。俺は君がキーの打ち間違いをしている姿すら見たことが無いよ」
「そう、ありがとう。では何故?」




率直な称賛をはいはいとばかりに受け流す波江に、笑みを苦いものへ変えながら、臨也は言った。




「勝手で申し訳ないけど、俺の個人的な問題の為、だよ。二月は働かないことにしてるんだ。俺は二月は働かない。そして君は俺の助手。つまり君も二月は働けない。そういうこと。給料は出すから安心してよ。久しぶりの春休みだとでも思ってまぁ、楽しんで」




手を軽く広げ、以上だよ、と臨也が締めくくる。



波江はその言葉を吟味するように数度瞬いた後、一つ頷いた。
どうやら未だ納得はいかないようだったが、とりあえず給料が出るということで満足はしたらしい。




「・・・・・・では・・・・・・私は三月の一日に、またここへ来れば良いという訳なのね? それまではまったくの自由だと?」
「そう。まったくそう」




確認を取り、再度頷いた波江は、彼女にしては珍しく小さな笑みを浮かべた。
働いている人間で、失業以外の休暇を貰って落胆する者はそういない。
彼女もまたそうだということだ。




「オーケイ、判ったわ。ではまた一月後に」
「ああ。また一月後に」




別れを告げた波江は、てきぱきと俊敏に少ない荷物をまとめ、黒いロングヘアーをなびかせて部屋を出て行った。



愛しの弟の元へでも行ったのだろうな、と臨也はぼんやりと思う。



次いで、時計に目をやる。



二十二時三十七分。



もうあまり時間が無い。



急がなければ。



”あれ”が来る前に―――。



臨也は立ち上がり、まず玄関へ向かう。



波江が出て行ったことで開いたままの鍵を―――臨也は彼女に鍵は渡していない。当然だが―――閉め、チェーンを掛け電子セキュリティをオンにする。



同じように窓に掛けているセキュリティもオンになっていることを確認し、電話線を抜き、一部屋丸々を埋め尽くしているパソコン機器の電源を、最小限の維持電力を残して切る。



数十個以上ある携帯電話を、ただ一つを除いて全て電源を抜き、その一つもマナーモードに設定しておく。



急ぐ仕事は既に終わらせてあるし、臨也の得意の客は彼が二月に仕事を請けないことを承知している。



準備完了だった。



臨也は時計を見る。



二十三時四十三分。



臨也は照明を落とした部屋の隅で、膝を抱える形で丸くなった。



さあ来るぞ。



瞼を堅く閉じる。



さあ来るぞ。



どろどろと質量を持った闇に紛れ、それはやってくる。
そしてそれは、臨也の意識の彼方からやってくる。



音は無い。



だが気配は感じられる。



霧のように静かに、さり気なく、それは臨也の頭を、心を、蹂躙し、掻き乱してゆくのだ。



―――一月にもわたって。
















―――――――――――――――
序章みたいな感じです。
そんな大したものじゃありませんが(汗
臨也さんが鬱の気を持ってたら非常に萌えるという勝手な妄想。
いえ、実際に鬱で苦しんでいる方もいらっしゃるとは存じているのですが本当妄想ですのですみません!









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