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2009-11-18 20:07

暗がりに目を向ける/後編


『暗がりに目を向ける』の続編です。

―――――――――――――――



ユーリが失明していると判ってから、仲間達の行動は早かった。
まずはきちんとベッドを備え付けている宿屋にユーリを運び(危険なのでレイヴンが担いで行った)、リタの診断が開始された。



ユーリの言葉を信じるならば失明の原因は蜂型の魔物。
軽く触診をしてみると、ユーリ本人も気付いていなかったようだが、首の辺りに魔物から受けたと思しき小さな刺し傷があるのが分かった。



蜂型の魔物の針には毒がある。
麻痺系の神経毒で、刺されると数分で全身に毒が回り、立つことすら出来なくなる。
今回は、受けた毒が少量であったことと、多くの神経が集まる首に攻撃を受けたことで、全身麻痺は回避できたが何らかの原因で視神経が侵され、失明に至ったようだ。



恐らくは一過性の症状―――だと信じたい。



これを受けて、エステルは体に残っている毒を排除するために治癒術式に入り、カロルとパティ、ラピードは血清を作る際に必要になるであろう、魔物の毒を狩りに行った。
ジュディスとリタは、過去にもこのような例があったか、あったのならそれに対する処方がないかを調べに。



レイヴンはまたぞろ何をしようとするか判らないユーリと、ユーリの事となるとこちらもまた何をしだそうとするか判らないエステルの見張りとして、宿屋に残った。




「・・・・・・エステル、もういいぞ」
「いいえ、浄化し切れてなかたら、後でどんな障害が出るかもしれません! もう少し・・・・・・!」




繰り返しリカバーを唱え続けるエステルにユーリが制止の声を掛ける。
しかし限度というものを知らない少女は、額に汗を浮かせながらリザレクションを詠唱し始めた。
ユーリは自分の為にやってくれているという負い目から強く言うことが出来ず、柳眉を寄せてエステル(が居ると思われる方向)を見つめている。



それまで静観していたレイヴンが、潮時だろうと壁から背を浮かせた。




「・・・・・・嬢ちゃん、後はリタっち達にまかせて、先に休んどきな」
「でも・・・・・・!」
「嬢ちゃんまで倒れたら、本末転倒でしょ? 青年にはおっさんがついてるから、ね」




諭すように言えば、エステルはか細い声で小さく「はい」と頷いて、ふらふらと部屋を出て行った。
最後に一度、ぎゅうとユーリに抱きつくのを忘れずに。



その後姿を見つめ、完全に扉が閉まるのを待ってから、レイヴンは先ほどまでエステルの座っていた、ベッド脇の椅子に座った。
熱心に治癒術式を続けていた、エステルの熱意が残っているようにその椅子はまだ暖かい。



レイヴンは何も言わなかった。



ユーリも何も言えなかった。



しばらくの間、部屋を満たしているのは沈黙と、その隣に座る時計の音だけだった。




「・・・・・・・・・・・・ユーリ」
「なっ、何だレイヴン」




いっそ心地良いほどの静寂を、破ったのはレイヴンの方だった。
唐突な呼びかけに、ユーリが一瞬どもる。



何せユーリは目が見えない。



今レイヴンが、どんな顔をして自分を見ているのかがまったく判らない。
街で、皆とはぐれないようにぴっとりと寄り添っていたラピードも、今はいない。
気配や空気を読もうにも、レイヴンの雰囲気は空恐ろしさを感じるほどに凪いでいて、ユーリは内心で冷や汗を流した。




「目、まだ見えない?」
「ん、ああ・・・・・・」
「じゃあ、俺が今、何しようとしてるかも・・・・・・見えないワケだ?」
「え?」




ベッドが重いと抗議するように軋み音をあげる。
レイヴンがベッドに乗りあがってきた音だと判った。



ユーリは焦った。
問い返す声が掠れる。



「!? ちょ、レイブ・・・・・・ん!」




ユーリの耳元に、レイヴンの熱い吐息がかかる。



首に、熱を持った大きな手が添えられる。



ようやくレイヴンが自分に密着するほど近寄っているのだと判り、押し返そうとするも、ここまで密着されると体格と筋力の差で敵わない。
鎖骨に、湿った唇が押し付けられ、ユーリはいよいよもって混乱した。



怖い。



何をされているのか―――何をされようとしているのか判らない。



視界を未だ暗闇に支配されていることが、ユーリにより一層の恐怖を与えていた。



レイヴンが、今どんな表情をしているのかが無性に見たい。



どんな意図と意思をもって、自分に触っているのかが知りたい!




「や、やだ・・・・・・レイヴン、ほんとに嫌だ。やめ」
「怖いか? 俺が」




耳朶に直接囁きこまれる声に、意識せず肩がぴくりと揺れる。



緊張で体が強張っているのが判る。



顔が熱い。



それでも、ユーリは何とか、首を横に振った。




「ちが、違う・・・・・・見えない、から、だから」




言葉が詰まる。
今、自分はどんな顔をしてる?
彼はどんな顔で、自分を見てる?



「レイヴ、」
「―――・・・・・・ごめんね。ちょっと苛め過ぎた」



ユーリが今一度、レイヴンの名を下に乗せた刹那、先ほどまでの熱が嘘のように、レイヴンはあっさりと、ベッドの上から身を引いた。
もう訳が判らずに、ユーリがその柳眉をきゅっと寄せたまま、しきりにぱちぱちと目を瞬かせる。
そんな事をしても急に視界が回復したりはしないが、無意識の行動だろう。




「そんな顔しないでってば青年。ちょっとからかっただけよ、本当」
「な、んなんだよ、もう・・・・・・」




ワケわかんねぇ、と震える声でうな垂れて、ユーリはようやく全身から力を抜いた。
その事にレイヴンが小さく安堵の息をついたが、ユーリには聞こえていないだろう。




「ホント、ごめんね。・・・・・・でも、これで目が見えないのがどれくらい怖いことなのか、判ったでしょ?」
「判ったけど・・・・・・こんなやり方しなくても良かっただろ」




再び、短い静寂が落ちる。



コチ、コチ、コチ。



妙に時計の音が気に障る。
それはユーリに、この部屋には今二人しかいないという事実をうるさい程に呟きかけた。




「おっさんね、ユーリ。もし本当に、ユーリの目が見えなくなったら、一生面倒見て、養っていく覚悟くらいあるのよ。騎士団時代のお金も残ってるし、家ならハルル辺りに、大きなのを一つ買ったらいいわ」
「ちょ、何言って」




おっさん今日、本当に変だぞ。
ユーリが訴えるが、そうさせたのは誰だとばかりに言葉を宙に浮かせる。




「でも、”自分から”、そんな危険、背負うことないじゃない」




もっと自分を、大切に想ってよ。
おっさんの心臓も、少しは労わって。




ばたばたと後ろに迫る足音を聞きながら、ユーリはぼんやりと思考の鈍る頭で、レイヴンの言葉を受け取った。















―――――――――――――――
勢いで続けちゃったお話の収集をつけるのがどんなに大変なのか知りました・・・・・・(汗
駄目だ、せめてどんな風に終わらせるのかくらい決めてから書き出すべきだった!
ちなみに途中のレイヴンはあんまり聞き分けのない子にはもう体に教えてやる!
って感じで襲おうとして、本気になっちゃいそうになって焦ってやめてます。
解説がなきゃ判んないっていうのもどうなの!
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