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2009-11-18 20:37

魔女が笑う日


大分遅くなりましたがハロウィンネタです。レイユリ。


―――――――――――――――



「トリックオアトリート! さぁおばさん、そのパイをくれないと家に卵を投げつけるよ!」
「はいはい、そう焦らないで」



日の暮れる光に照らされたダングレストに、子供たちのはしゃいだ声が響く。
街路樹には飾りつけが施され、人々は家の玄関に、ひょうきんな彫りつけをしたカボチャを飾る。
薄暗い街には小さな魔女やドラキュリアが跳梁跋扈し、辺りは甘い匂いに満ちていた。



今日はハロウィーンである。




「あちゃあ、やっちまったわ。今日はハロウィンだったのねぇ」




ダングレストのお祭り騒ぎを見つめ、レイヴンが気落ちした声を出す。
甘いものが苦手な彼のこと、辺りに充満するお菓子の香りについて言っているのであろうが、それは誰の耳にも届くことなく、カロルやエステルたちの歓声によってあっけなく吹き飛ばされた。




「うわぁ、良かった間に合った! 僕、この日のために狼男の衣装を作っておいたんだ!」
「私、この手の行事には参加したことがないんです! と、とりっくおあとりーとー!」
「べ、別に私はこんなお子ちゃまの祭りなんて興味無いんだけど、エステルが行くなら仕方ないわね。あの子、目離すとすぐどっか行っちゃうし、し、心配だから」
「ええそうね、心配だものね。ところでその猫耳と尻尾、似あっているわよ」
「うっさい!」




カロルが大きなカバンから衣装を取り出し、エステルは興奮して言いなれない文句を唱え、リタは言い訳しつつも足取り軽く街へ向かい、ジュディスが面白そうに着いてゆく。
こと祭りとなると普段に増して賑やかなメンバーである。
あっという間に人ごみに巻き込まれて見えなくなる背中を見送ってから、ユーリはレイヴンを振り返った。




「さて、じゃあ俺らは先に宿でもとっとくか」
「是非ともそうしましょ!」




わざとらしく鼻をつまんで返すレイヴンに、ユーリはけらけらと笑った。
















「・・・・・・・・・・・・」




夜半過ぎ。



遊び疲れた子供たちは親にお菓子を奪われないよう、大切に隠して眠りにつく。



街中を練り歩いたカロルたちも、着替える気力すらなかったのかそのままの格好でベッドに沈んでいた。
ユーリがちらりと視線を移せば、部屋の隅にはカロルたちが貰ってきたものとは別の、お菓子の山が目に入る。
宿に来る途中、ハッピーハロウィンを謡いながら、街の人々がユーリに押し付けた物である。
レイヴンが、部屋までお菓子で埋まっては心の休まる時がないと嘆いていたのを思い出し、ユーリは小さく笑う。
そうしてそっと、一人宿を抜け出した。



もう日付をまたごうかという時間だが、一歩外へ出ればまだ人々はお祭りムードで、変わったところといえば子供の姿が見えないことくらいだった。



酔いどれてかぼちゃを頭に被る者。



悪戯だと笑いながら手当たり次第にペンキを塗って回る者。



もはや無差別にキャンディーをばら撒く者。



漂う香りには酒の匂いも入り混じり、朝にはひどい有様になろう事が容易に想像できるが、先のことは先のこと、今が楽しければ彼らはそれで良いのである。



しかしそんな、日頃の疲れを忘れた騒ぎようを横目に、ユーリは何故かより暗い道へ、より人のいない道へと足を進める。
そうして辿り着いたのは街の端、外へと続く大きな橋の上だった。
陽気な音楽も煌々と灯る明かりも遠く、眼下を流れる川を見下ろして、ユーリは小さく嘆息した。




「どーしちゃったのよ、青年。えらく元気が無いじゃない?」
「・・・・・・! ・・・・・・レイヴン?」




薄明かりの中、浮かび上がるシルエットに、ユーリは驚いた。
祭りの賑わいは遠く、辺りに人影は見えない。
街の中心よりも何故だか風も冷たく感じて、そこには特有の寂しさがあった。



自分から来ておいてなんだが、今日に限ってここはとてもつまらない場所だろう。
それに、出てくるときは確かに眠っていると思っていたが、わざわざ自分をつけて来たのだろうか。



そこまで考えて、ユーリは苦笑する。




「あんたこそどうしたんだよ、レイヴン。こんなとこ来たって何も無いだろ?」
「自分で言うことじゃないわねぇ」
「ま、そうんなんだけどさ」




それきり、沈黙が降りる。



気まずさは感じない。



けれど無言のうちにやんわりと、言葉の続きを促されているような気がして、ユーリは視線を落とした。




「祭りとか、さ。あんまり好きじゃないんだ」




意外だ、とレイヴンが表情で語る。
それを見て、ユーリが言いづらそうにんー、と唸った。
適切な表現が、己の語彙に見つからない、といった風であった。




「いや、好きじゃないって言うか・・・・・・ん、俺は夜が好きなんだけど」
「ああ、それは判るわ」




レイヴンが頷いた。
恐らく、ユーリの放浪癖、というか、散歩を思い浮かべているのだろう。
彼は良く散歩に出かけるが、それは夜の割合が多かったのだ。
皆が正にベッドに入ろうとしてるときに、不意のタイミングで部屋を抜け出す。




「・・・・・・こういう、祭りとか見てると・・・・・・何か、夜がもう来ないみたいに」




錯覚するんだ。



続けた言葉に、レイヴンが目を細める。



彼には今の言い草は、夜が好き、というよりも、むしろ朝が嫌いだ、というように聞こえた。
確かにこの青年は、夜を体現したかのような容姿をしている。



黒い瞳。



黒い髪。



白い肌。



この世界の人間には珍しい色味だ。



けれども先ほどの言葉は、あまりに己を卑下した言い方ではないだろうか。
まるで、自分には朝が、光が似合わないとでも言いたげな。




「・・・・・・それで、不安になってこんなトコまで来ちゃったの?」
「まあ、そう」




ユーリが曖昧に頷く。
実際にはそればかりではなかったが、うまく説明できそうに無かったからだ。



ユーリは夜が好きだった。



底なしの闇で全てをあまねく包み込み、受け入れる夜が好きだった。



だから朝が嫌いだった。



どこもかしこも眩しくて、自分の醜い所まで晒されている気分になった。



エステルやフレンたちを見ていると、彼女たちの内側にある光で、自分が灼かれている気分になることがあった。



今日のような日は、特に自分のいるべき場所を忘れそうになってしまい、言いようのない不安に駆られた。
それで、闇がまだそこに居ることを確認したくて、こんな所まで来てしまったのだ。




「馬鹿ねぇ、ユーリ。そんなことならおっさんに言ってくれれば良かったのに」
「・・・・・・?」




ユーリが怪訝そうにレイヴンを見つめる。
その表情は口調に反して柔らかく、思わずユーリをどきりとさせる。




「ほら、おっさん、もう一回死んでるし? 裏で暗躍し過ぎたせいで、明るいところとか苦手なのよね。青年と一緒。闇の方が性に合ってるわ。ほらほら、おっさんといると落ち着かない?」
「・・・・・・阿呆か」




己を夜だと暗喩したユーリ。
それに対して、それでは自分は闇だと、そういうことが言いたいらしかった。
それに気づいたユーリは、抱きついてくるレイヴンに、ようやくそれだけを返した。



頬が熱くなるのを感じて、顔を伏せる。



それはまるで、いつでも一緒にいると、そう言われているような気になる台詞だった。
そしてレイヴンは事実、そのつもりで言ったのであろう。
レイヴンは体を密着させたまま、愛しげにユーリの頬を撫でる。




「ね、ほら。おっさんが一緒にいたげるから、今は宿に戻りましょ。おいしいお菓子もあるわよ?」
「―――・・・・・・ん、」




ダングレストを繋ぐ橋に、再び静寂が居場所を取り戻す。
全てを見ていた暗闇はしかし、何も語らず、ただ辺りを眠らせていた。
もうじき、夜が明ける。
















―――――――――――――――
遅くなりましたがハロウィンネタ!
なんですがこれ別にハロウィンじゃなくてもいいですね・・・・・・
ユーリは自分を醜いとか闇だとか思い込んでたらいい!
それでレイヴンはそれを肯定するでもなく否定するでもなく受け入れるといい!
判りにくい萌え!(もう認める)
私的なイメージではユーリが夜でレイヴンが闇な感じだったので。
フレンは光。エステルは癒し。カロルは意気。ジュディスは月。リタは猫(笑)
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