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2009-11-19 01:41

不相応な劣等感


―――――――――――――――



「わぁ、綺麗な鏡ですね!」

 


エステルが指先を合わせ、華やいだ声を出す。
視線の先には銀の手鏡。

 

始まりはカロルの四次元(リタ曰く)カバンだった。

 


要るものも要らないものも何もかもごっちゃにしてカバンに詰め込むのは、カロルの癖だった。



重くなるだけなのだから、と仲間たちが諭しても、もしかしたら役に立つかもしれないでしょと、お前は貧乏性の主婦かと問いたくなるような理論で言い返し、果てには道端に落ちているちょっと形の良い石ころまでカバンに詰める始末だった。
ここまでくるとガラクタを集める犬レベルだが、拾ったものは全て自分で背負っているカバンに入れているのだし、本当に四次元なのかそのカバンから物が溢れたことも無い。
得にも役にも立っていないが、別段害も無いのでまぁやりたいようにやらせておくかというのが、最近の仲間達の認識だった。



しかし、やはり何でもかんでも放り入れたカバンは底なしで―――何せたまにレイヴンあたりが勝手にごみまで入れているのだ―――本当に必要なものを取り出そうとするともう所在など判らない。
その時も、後ほど聞けばスペクタクルズだったらしいが、とにかく自分のカバンから探し物をしていたカロルは、地面に座り込んで中を漁っていた。



これでもないそれでもないと乱暴にかき回していたときに、弾みでぽろりと、手のひら大の手鏡がこぼれ出たのだ。
そしてそれを見咎め、気に入ってしまったのがお姫様、という訳である。
どうしても見つからないのか顔を上げて溜め息をついていたカロルは、エステルが取り上げたそれを見て首をかしげた。




「あれ? そんな物、僕いつカバンに入れたんだっけ」
「このガキンチョ、だからガラクタばっかし集めんなって言ってんでしょーが! カバンの中身くらい把握しとけ!」
「あ痛!」




高速チョップを脳天に受け、悲鳴を上げて蹲るカロルを横に、エステルはるんるんと手鏡片手に身だしなみを整え始めた。



古今東西どこでもそうだが、女の子は鏡というものが大好きなのだ。




「あら、良いもの持ってるわね、エステル。私にも貸してくれるかしら」
「はい、どうぞ!」
「あ、その次あたしね」




一行は未だ行軍の途中であり、今は見渡しの良い丘の上で休憩中である。
戦闘で衣服も少々乱れてしまっていたが、これ幸いと女性陣は鏡を手に髪や肌をチェックし始めた。



レイヴンやカロルなどから見れば一体何をなおしているのか判らない光景だが、あれで少女たちの中では割と重要なことだと理解しているので、口には出さない。




「ユーリも使います?」
「え、俺?」




しばらく手鏡を眺めていたエステルが、木陰で休んでいたユーリに手に握ったそれをどうぞと差し出した。
まさか男である自分にそんな気遣いがなされるとは思いもしなかったユーリはしばらくきょとんとエステルを見つめた後、「あー」と苦く唸って、銀色の手鏡を押し返した。




「いやいいよ俺は。男だし」
「男の人でも身だしなみは大事ですよユーリ!」
「じゃあおっさんに渡してやってくれよ」
「あ、レイヴンはいいんです」
「おおっとお思わぬ方向からのおっさんいじめ! 偏見よ嬢ちゃん偏見だわ! おっさんだって身だしなみくらい整えますぅ! オシャレだってしますぅ!」
「うざい!」
「痛い!」




スプレットゼロで盛大にツッコまれるレイヴンを、二人は苦笑しつつ横目に眺める。
そろそろレイヴンは本当に気をつけないと、少しずつリタの使う魔術のスペックが上がっていることに気づいているだろうか。
そう思いながらもエステル視線をユーリに戻すと、懐から小さなクシを取り出した。




「ほら、クシもありますよ。ユーリ、折角綺麗な髪なんですから、大事にしないと駄目なんですよ?」




そう言ってエステルは隣に座り、勝手にユーリの髪にクシをとおし始めた。
こうなるともう言っても無駄だと悟り、ユーリはエステルの好きに任せる。



砂埃などで少なからず汚れているはずのユーリの髪は、しかし簡単にするするとクシを滑らせた。
基本的にストレートだが、頬から首にかけてゆるい横向きのウェーブが見られる髪は、ユーリの白い頬にかかりエステルですら女性と見まごう程に色っぽい。
エステルは羨ましい、と書かれた顔でほうと息をついた。




「ユーリの髪、本当に綺麗ですよね。羨ましいです」
「そうか? エステルの方がよっぽど可愛らしいと思うけどな」
「もう! やめてください!」
「本当だって」




ぽかぽかと愛らしい擬音を鳴らせて殴るエステルの拳を受けながら、ユーリは苦笑した。




「・・・・・・ユーリは、自分の髪が好きじゃないんです?」
「んー、まぁ髪って言うか・・・・・・目も、かな。・・・・・・黒いだろ」




自分の毛先をつまみあげて、ユーリはつまらなそうに言う。



ユーリが自分の瞳や髪の色についてそんな事を思っているとはまったく知らなかった、というか常々羨ましいと綺麗だと思っていたエステルは考えられずに、しばらくぽかんとした。
そうしてやっと言葉の意味を理解して、拳を握って憤慨する。



確かにユーリの持つ色はテルカ・リュミレースでは珍しいものではあるかもしれないが、それだけ希少で貴重なのだ。



誇ることはあっても卑下することなど何もない。



それがエステルの思いだった。




「どっ・・・・・・どうしてです!? ユーリの髪も目も、とても綺麗です! わ、私は大好きですよ!」
「おっさんもユーリの髪、好きよ? どうして嫌がるの?」




エステルの声を聞きつけて、脇でのびていたレイヴンも木陰に這い寄ってきた。
はたから聞いただけだが、ユーリが己の色合いを卑下しているとは聞き捨てならなかったのだ。



レイヴンもまた、エステルと同じくユーリの彩を美しいと思っていた。




「まぁ・・・・・・そう言ってくれるのは嬉しいけどな。変に悪目立ちするし」




その深い色味を高貴だと、目立っているのを注目されているからだと、そう考えることがどうして出来ないのだろうか。



エステルはもどかしさにぶんぶんと腕を振った。




「じゃあ、どうして黒い服を着てるんです?」
「そうした方が、目の色とかが目立たないかと思ったんだよ。変に違う色着ると、際立つからな」




―――・・・・・・なるほど。



納得しかけて、慌てて首を振る。




「で、でも・・・・・・」
「そんなに意固地になるなんて、青年珍しいじゃない? おっさんも黒い色って好きよ?」




ぐで、とだらしなく横になりながら言うレイヴンに、再びユーリは視線を地に落とした。
ふ、と吐息をつきながら、もらす。




「別に、俺はそうは思わねぇってだけだよ。陰鬱だろ、こんな目。―――気持ち悪い色だ」




べち!



唐突に響いた音に、しばらくレイヴンにも何の音か判断できなかった。




伸ばされたエステルの腕と、その先にあるユーリの頬を見て、ようやくエステルがユーリの頬を腕を突き出してびんたしたのだと判る。




「ユーリは綺麗なんです! そんな言い方したら駄目なんですよ!?」
「す、すいません・・・・・・?」




珍しく本気で怒っているらしいエステルに、反射的にユーリも敬語になった。



エステルが言っていなければ自分が言っていただろうな、と考え、レイヴンがほっと息をつく。



キュモールのように自意識過剰なのは考えものだが、自分の価値をまったく考えていないというのもまた考えものだ。



いつか自分が判らせてやらなければと、エステルとレイヴンは時を同じく決意した。
















―――――――――――――――
実はユーリが自分の瞳の色とか好きじゃなかったら良い!
それで良くレイヴンの瞳とかを羨望の目で見つめてたら良い!

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