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2009-11-18 20:59

愛しい手/中篇




―――――――――――――――



あれ以来―――つまりナイレンとの再会以来、ユーリは忙しいギルドの仕事の合間に、帝都へと足しげく通うようになった。



星喰みの出現と消滅、同時に魔導器の消失。
世界を激変させるそれらの出来事から、まだ幾月と数えられる程度にしか時の経っていない今。
騎士団はもちろん、今や五大ギルドに名を連ねている凛々の明星も寝る間もないほどに忙しいはずにも関わらず、だ。



ユーリは、ほとんどこじつけに聞こえる理由を何かしらと見つけては、一月に一度は必ず帝都を、ナイレンの元を訪れるようにしているようだった。



そして多くの場合、その隣にはフレンの姿があった。




「よぉユーリ。仕事か?」




突然掛けられた声に、レイヴンの回想が遮られる。



レイヴンは今、ジュディス、ユーリと共に、ユニオンからの使者としてザーフィアスを訪れているところだった。
我に返り、辺りの雑踏や喧騒が耳に入ることで、レイヴンはようやくそのことを思い出す。



快活な声を受けて、ユーリが弾かれたように振り返った。




「隊長!? あんた何でこんな所出歩いてんだ!」



しかも一人で!
ユーリの叫びは悲鳴に似ていた。
そこに居たのは、今正しくレイヴンが思い浮かべていた、ナイレン・フェドロックであったのだ。



ユーリはその姿を認めるや否や、その元に駆け寄った。
眉尻を下げたその表情からは、ナイレンに対する心配の念がありありと見て取れる。



足を悪くしたナイレンは今、特別顧問としての立ち位置で騎士団に所属しており、つまりは基本的に帝都に腰を据えているとのことだった。
仕事で城を出るときは常に士官が傍に付き、昔ほど俊敏な動きの取れなくなったナイレンを補佐していると聞いている。



しかし今目の前で笑う彼は確かに一人であり、銀の杖をついていた。
道は綺麗に舗装されているが、人通りの多い市民街では少々歩きづらいだろう。



やはり、左足は少し重そうだ。




「ただの買いもんだ。そんなに心配すんな」




ナイレンの左腕と胴の間に体を差し込み、足に負担が掛からないよう支えようとするユーリに、ナイレンが呆れたように言う。
”事件”直後は行方不明で死亡扱いになっていたナイレンだ。
その後すぐに生存が確認されたそうだが―――とはいえそれが公にされたのは最近だが―――ナイレン隊は解体されている。



何度そう言ってもユーリは癖なのかわざとなのか、ナイレンを隊長と呼び続けた。
必要ないと言われても、ナイレンの巨体を支えようとすることもやめようとはしなかった。
細身のユーリが肩を貸すその姿は、何とも重そうだと言うのに。



心配なのだろう。



師を善く慕っている証拠である。



レイヴンはそう考え―――けれども、魔導器である筈の胸が、軋む様に痛むのを感じた。
思わず右手を、胸に当てる。
レイヴンは辟易し、顔をしかめた。




「悪い、レイヴン、ジュディ。先行っててくれ。隊長送ったら俺もすぐ行くから」
「・・・・・・・・・・・・」
「ええ、判ったわ」




ユーリの言葉を返そうとしないレイヴンに代わって、ジュディスが笑む。
悪ぃなぁ、と悪びれずにナイレンが手を振り、二人の背中は人ごみに紛れ、すぐに見えなくなった。
それを見送ってから、一つ嘆息してジュディスが言った。




「嫌なら嫌って、素直に言ったらどうかしら?」
「・・・・・・何のこと?」




レイヴンがわざとらしくとぼけ、ジュディスが肩をすくめる。



ジュディスの問いの意味が判っていないわけでは、もちろんない。
”ユーリが彼と共に行ってしまうことが”嫌ならば、という意味だ。



しかしレイヴンは、自らの内に抱く思いを、言葉という形にしてしまいたくなかった。



レイヴンの胸の痛みは、錯覚でも、無論だが魔導器の故障でもない。



つまるところ、嫉妬なのだ。



好意を寄せている女性が、自分ではない男に寄り添っているということに対する、嫉妬。
けれどレイヴンは、胸を軋ませる感情が嫉妬であることと同時に、それが見当違いの感情であることも理解していた。



ユーリは、師に向ける尊敬の念からナイレンを慕っている。



ナイレンは、子に向ける愛情を持ってユーリを慈しんでいる。



好い関係だ。



微笑ましい。



見守るべきだ。



判っている。
理解している。



それでもレイヴンは、湧き上がる思いを止めることが出来なかった。



しかも、そんな己の思いを知っているのかいないのか、たまに顔を合わせれば、ナイレンは「よう、シュヴァーン」などと気安く声を掛けてくるのである。
いや、同僚であった頃からあの男と接点などほとんど無かった。
食わせ者のフェドロックの事だ、全て知ってやっているに違いない。



背中を押しているつもりなのかからかっているのか、どちらにしても性質の悪い。



お前の一挙一動に、いちいち心を掻き乱される俺の身にもなってみろと言ってやりたい。



ああ、しかし、いい年をして独占欲とは情けない―――。



「私は気に入らないわ。あの二人の関係」




そんな詮無い考えに囚われかけていたレイヴンは、隣でごくさり気なく呟かれた言葉にぎょっとした。




「気に入らない。いくら師弟の関係とは言え、それは過去のことだものね?」




嫉妬しちゃうわ、と消えた背中を追うように、ジュディスの瞳が遠くを見つめる。
レイヴンは単純に感心した。



ジュディスは胸中を易々と吐露することを良しとしない性格だと思っていたが、違ったか、と。




「・・・・・・素直ねぇ、ジュディスちゃん」
「あら、嘘が苦手なだけよ」




底知れない微笑を浮かべるかつての仲間にレイヴンは苦笑し、胸に置いていた右手で服をぎゅうと握り締めた。



―――確かに自分も、もう思い続けるのにも疲れていた。



一度目は、叶わなかった。
けれどもそれで良いと思おうとした。
結局それも長いこと引きずってしまったが、ユーリこそがそれを断ち切ってくれた。



そして二度目の恋。
今度ばかりは、諦めるつもりはない。
彼女が他の男に頬を染める姿など、想像するにも恐ろしい。



レイヴンは小さく息を吐き出し、言ってしまった元同僚に不適に笑って見せた。
















―――――――――――――――
ナイレンをユーリが支えるって場面が書きたかったんですが・・・・・・(汗)
ナイレンとユーリの絡み難しい。
もう一度映画を見ろという神のお告げか。
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