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2009-11-18 21:02

雨降りの厄日




―――――――――――――――



「・・・・・・何、やってんのおたく」




絞り出たレイヴンの声はひどく不機嫌そうだった。




鳴り響く雷鳴。



毛先から滴る雫。



濡れそぼった衣服。



要するに濡れ鼠状態のユーリ達である。
そんな彼らに、優雅に声を返してきたのは、



「あら、奇遇ねぇユーリくん!」




手に持たれた暖かいコーヒーカップ。



組んだ足に汚れ一つ無いブーツ。



テーブルに並ぶ、ほくほくと湯気の立つ料理。



実に快適に宿屋前のメインホールを占領する、幸福の市場。
その首領カウフマンだった。



扉一枚向こうから聞こえる激しい雷鳴の通り、外は激しい雷雨である。



場所はノードポリカ。



到着早々見舞われた悪天候に、ユーリたち一行はたまらず闘技場内の宿屋へ駆け込んだのだが、街の門から中心部の闘技場まではそれなりに距離もある。
叩きつけるようなそれから身を守るものも無く、全身ずぶ濡れでようやっと屋根のある所へ駆け込んだにも関わらず、寒さと張り付く衣類や髪の毛の気持ち悪さに体を振るわせるユーリたちの前に姿を現したのは、悠々と雨の日の休息を楽しむカウフマン一行。



それはもう愛想も無くなろうと言うものである。
しかも声を掛けた自分を完全に視界からシャットダウンして、ユーリに視線を合わせて笑顔を向けるものだから、レイヴンは顰めた表情が更にひくつくのを感じた。



「か、カウフマン! 幸福の市場もこの街に来てたんですね」




カロルが雨の所為で崩れた髪を気にしながらも、笑顔でカウフマンに言う。
流石、幼くとも一ギルドの首領ということか、こんな時でさえも他有力ギルドへの売込みを忘れない。




「ええ。ホントはマンタイクへ行かなきゃならないんだけど、この天気じゃ体力消耗するだけなのが目に見えてるしねぇ。あ、サンドウィッチ食べる? 美味しいわよ」
「え、遠慮しときます・・・・・・」




そう? 残念。
と、カウフマンが自ら差し出した分厚いサンドイッチを口に運ぶ。



発音が妙に良いのもまた小憎たらしい。



レイヴンはずず、と鼻をすすると、早く早くと皆を急かした。



濡れた服や髪を早く乾かしたいのもあるが、ただでさえユニオン絡みのいざこざでカウフマンの顔は見飽きているのだ。
宿はもう目の前なのだし、これ以上ここで足踏みをする理由も無い。



後者の理由はともかくも、前者については仲間たち、特に女性陣は全くもって賛同のものだったので、カウフマンへの挨拶もそこそこに、足早にカウンターへと向かっていった。
レイヴンもそれに続こうと足を一歩踏み出したが、じぃとユーリを見つめるカウフマンを見咎めて足を止める。
ユーリも見られている自覚はあるが、理由が判らないのか首を傾げていた。



可愛い。



反射的にそう思い頬を緩ませるが、その視線の先にいるのがカウフマンであるということが気に入らない。



というかユーリの意識が自分以外に向くというのが気に入らない。



自分以外だけを見て欲しいなどと言えるはずはないし、言う権利も無い。



自分はストーカー気質の思春期かとも思うが、勝手に感情が湧いてくるものは仕方が無い。




「何か用か? カウフマン」
「いやー、ただ雨の日も悪いことばっかりじゃないわねぇって思っただけよ。ユーリくんてホント、目の保養になるわねぇ。滴る水がまたグーよ」
「ちょっとお―――!」




ウィンクまでして見せる様子に、とうとうレイヴンは耐え切れず、ユーリとカウフマンの間にセクハラだとばかりに体を滑り込ませた。




「おい、おっさん何してんだ」
「ユーリは黙ってなさい! うちのユーリをいやらしい目で見ることは許さないわよカウフマン!」
「あら、何よそれ心外ね」




睨み合う両者を見比べて、ユーリは首をこてりと傾げたが、ふと思い出したようにレイヴンの肩から顔を出した。




「で、結局俺に用があったんじゃあねぇのか?」




問われた言葉から察するに、先ほどの彼女の「貴方に見惚れてたのよ」という若干遠回りの表現が伝わっていなかったらしい。
瞬間、長年の軋轢も合わさってか半眼でレイヴンを睨んでいたカウフマンの表情が、ころりと商業スマイルに代わる。




「そうそう! ユーリ・ローウェルくん、貴方、明日なんて暇じゃないかしら?」
「依頼か? まぁ・・・・・・内容によるな」
「大したことじゃないのよ。雨が止み次第カドスの喉笛に向かうつもりなんだけど、最近大型の魔物が棲み付いてるって聞いてねぇ。護衛を頼みたいんだけれど」




にこにこと足を組んだまま言う彼女に、ユーリが思い出すように声を漏らす。



カドスの喉笛。



そこに棲み付く大型の魔物・・・・・・。



「ああ、」と、レイヴンもようやく思い出す。




「あそこのギガントモンスターなら、もう”ヤ”ってるぜ。安心して通れるんじゃねぇか?」
「あら、それ本当に?」




純粋に感心した声音でカウフマンが言う。
商売人らしく表情を崩さない彼女にしては珍しく、少しばかり目を見開いていた。
情報通の幸福の市場であるから、初耳、ということ自体も珍しいのだろう。




「へぇ・・・・・・貴方ホントに優秀ね、ユーリくん。失敗したわぁ。あの時無理矢理にでもうちに入れておけば良かった。ねぇ、今からでも良いけれど、どう? うちに乗り換えない?」
「ちょっとお―――っ!」




聞き耳でも立てていたのか、今度はカロルが絶叫と共に飛び出してくる。
レイヴンの隣に並び、まったく盾にはいないながらもユーリを庇った。




「だ、駄目だよ! ユーリはもう凛々の明星の一員なんだから!」
「あら、決めるのはユーリくんでしょ?」
「おい、勝手に話を進めんなって」
「そうよ駄目よ青年! 幸福の市場なんて狡いギルド行くくらいなら天を射る矢にいらっしゃい!」
「あら! 心外だわ!」
「ひどいっ! ユーリ! 僕たちを裏切るの!?」
「話を勝手に進めんなって!」




結局論争は風呂から上がったジュディスたちが止めに来るまで続き、その頃にはすっかり雨も上がってしまっていた。



冷えた体を放置したレイヴンとユーリの二人は案の定風邪を引き、レイヴンはカウフマンへの恨みを募らせるのみの結果となった。
















―――――――――――――――
ギルド側×ユーリのネタを頂いたので早速!
微妙な結果になりましたが!
カウフマンにユーリの引き抜きをさせたかったんです・・・・・・。
それにしても書き始めてから気づきましたがカウフマンってどんな口調だったか忘れた。
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