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2010-02-27 21:32

吐露された心





 

――――――――――――





運び込んだハルルの病院で、ユーリは七晩、眠り続けた。
七日で目を覚ますことが出来た、と表現すべきかもしれない。



しかしやはり、右腕には酷い火傷の跡が残ってしまった。



ユーリが目覚めたのは夜だった。



体を起こし、自分のベッドの周りに寄り添うようにして眠っている仲間たちを見て苦笑した。
心配を掛けてしまった事を悪いと思ったが、それ以上に嬉しいと感じた。
己が人でないのだという事実を知っても、尚大切に思ってくれているという事実に安堵した。
外を見ると、雲一つ無い夜空にも関わらず月が見えなかった。



新月だ。



ユーリはベッドを抜け出した。










昏々と眠り続けた体は弱っており、思いつきで抜け出したのは良いもののすぐに疲れてしまった。
ひんやりと冷えた空気ですら皮膚にぴりぴりとした刺激を与え、ユーリは嘆息する。



仕方なく立ち止まり、空を見上げてそこにあるはずの月を見つめた。




「どうして言ってくれなかったの?」




背後の声に振り返る。
先ほどまで眠っていたはずの仲間たちがそこに居た。
けれどその声や表情に責める色は無い。
純粋に何故かと、問うているようだった。



ユーリは目を伏せた。




「・・・・・・自分でも、人間だと思い込んでいたんだ。そうでないと気付いたのは、つい最近だ」
「そう、自意識という殻に抑え込まれていたのね。そうでなければ、私が気付いた筈だった」




ジュディスの言葉に、ユーリが頷く。
そうして、静かに語り始めた。




「最初は小さな違和感だった。エステルが治癒術を使うたびに、何か良く判らない感情が胸に湧いた。それは旅が
進むと段々明確な形を取るようになった。俺はエステルに殺意を抱いてた」




暗く、沈みこんだ瞳がエステルを見る。
けれどエステルは、それを受け入れるように微笑んでいた。




「エアルクレーネを見たときは、急激な使命感に襲われた。けれど何をすればいいのか判らなくて、ただ焦った。その
後フェローに言われた言葉で、自分が始祖の隷長なんじゃないかって、思うようになった」
「フェローには、何て?」
「”お前は何もしないのか”と」




レイヴンの声に、小さく、短く、ユーリが返す。



全て、彼が始祖の隷長だという証だった。



今でこそ術式で抑える事が出来たが、エステルは満月の子だ。
始祖の隷長の中でも力のあるフェロー自ら、危険であると殺そうとしたのだ。



そして、エアルクレーネを鎮めるのは太古より始祖の隷長の役目。
ユーリの奥で眠っていた本能が、それを果たそうとしたのだろう。



合点の行く話だ。



しかしユーリの表情は暗かった。




「それでも半信半疑だったんだ。いや、むしろ思い違いであって欲しかった。俺は人でありたかった。でも、アレクセイ
との戦いのときに、そうではないと判った。あれは俺にも理解できない事だったんだ。気付いたらあの姿になってた」




ユーリの声は、もはや囁き声と区別がつかない程になっていた。



ユーリという存在が始祖の隷長である事に、一番戸惑い、受け入れられないでいたのはユーリ自身だったのだ。
始祖の隷長の体のおかげで、仲間たちを守れたことは良かったと思っている。
けれど一度は、エステルを殺したいと思ってしまった。



それにずっと人間として生きてきて、急にそうではないと知ってしまっても、どうすれば良いのか判らなかった。




「ユーリ。・・・・・・ユーリ、今、”あの姿”になることは出来ますか?」
「・・・・・・!」




弾かれた様に、ユーリが顔を上げる。



”あの姿”。



エステルが言っているのは、ザウデ不落宮で見せた。始祖の隷長としてのユーリの姿のことだ。
背後の仲間たちが、気遣わしげにエステルを見やる。



今、自分という存在について悩むユーリにとって、その願いは酷なようにも聞こえる。



だがそんな事は、エステルにも判っている筈だ。
それでも尚願うということは、彼女にも何か考えがあるという事だ。



そこまで理解できているからこそ、仲間たちはただ、見守るのみに徹しているのだ。




「ユーリ。お願いします」
「・・・・・・・・・・・・」




エステルの揺ぎ無い瞳に、ユーリが小さく、頷いた。
それは一瞬の事だった。



しゃん、という鈴の鳴るような音と共に、ユーリの姿はそこから消えていた。



代わりに表れたのは、黒い鱗に覆われた、美しい龍だった。
右半身にはやはり、傷の跡が残っている。
それでもやはり、美しかったのだ。



今宵は新月であるために、辺りを照らす月は無い。
それでも、か細い星の光を受けて、ユーリの姿は闇に浮き上がるようにくっきりと見ることが出来た。



切れ長の、煌く瞳がエステルを見据える。
けれども、そこに宿る光は、やはり戸惑いに揺れていた。
威厳溢れる姿だけに、その迷うような仕草にギャップを覚えた。



エステルが一歩、ユーリに近づく。




「・・・・・・怖くなんか、ないですよ。ユーリはユーリです。・・・・・・ほら」




首をもたげたユーリに手を伸ばし、その硬質な鱗に覆われた頬に、自身の頬を摺り寄せる。
ユーリがくすぐったそうに身を捩った。




「あ! エステルずるい! 僕もユーリに触りたい!」
「あたしは科学的興味があって触るんだからね。始祖の隷長に触れる機会なんて無いから・・・・・・」
「折角綺麗な鱗なのに、傷がついちゃってもったいないわね。治ると良いのだけど」
「わ、ほーんと! ユーリの鱗艶々ねぇ」




わらわらと体を撫で回す仲間たちに、ユーリは慌てて身を引こうとした。




「や、やめろって! まだ力の加減が上手く出来ないんだ。傷つけるかも・・・・・・」
「ユーリ」




エステルの、叱咤するような声音に、ユーリが動きを止める。




「ユーリが私たちを傷つけるようなことする筈ないんです! だから大丈夫です」




まるで自分の事を言っているかのような断定具合だった。
思わずユーリがぽかんとエステルを見るが、慌てて言い返す。




「でも、一度はお前を、殺したいと思ったこともあったんだぞ」
「今も、私を殺したいと思ってるんです?」
「お、思ってない」
「だったら、大丈夫じゃないですか」




何という力技な論理だろうか。
エステルらしいと、リタが思わず噴き出した。
ひたひたとユーリを撫でていたレイヴンが、あーあ、と溜息を漏らす。




「惚れた相手が始祖の隷長なんて、ついてないわぁ。ただでさえライバルが多いと思ってたのに、そのうちフェローま
で恋敵なんてことになったらおっさんどうしましょ」
「またレイヴンはそういうことを・・・・・・」




真面目に悩んでみせるレイヴンを、カロルが呆れた目で見やる。
ジュディスはいつものように笑みを浮かべていた。
エステルがもう一度、ユーリに手を伸ばす。




「ね、ほら。気にすることじゃないですよ。ユーリには私たちがいるじゃないですか」




ぽろりと、ほとんど意識せず、ユーリの目から涙が零れ落ちた。



始祖の霊長が流す涙とは、また稀有だ。



ユーリは、涙と一緒に、胸のうちに凝り固まっていた何かも流れ出ているように感じた。



エステルもまた、止めようとはせず、その涙を見て美しいと、笑うだけだった。















―――――――――――――――
何が書きたいのか自分でも判らなくなってきた!
話が何か一人歩きしてる!
私はこう、書きたい場面がスライドみたいに頭の中に浮かぶのでそこに辿り着くまでは割りと適当な感じでやるのです。
最初に書いたエンテレパロが既に何も考えずに書きすぎた。
まぁもうしょうがないか!(←諦めた)









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