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2009-11-18 21:20

好敵手の逢偶




―――――――――――――――



空気が重い。



雰囲気が痛い。



沈黙が恐ろしい。



そんな事を無言の内に思いながら、ユーリは一人冷や汗を流した。
穏やかな春の日のザーフィアス、レイヴンとフレンに挟まれて。















この三人が、こうして”仲良く”、帝都の街を歩くことになったのは、偶然と嫉妬と計算によるものだった。



ユーリ自身は、忙しい旅路の中久しぶりに寄った帝都を純粋に懐かしく思い、散歩でもしようかと宿を抜けただけだったのだが。



ラピードはドンとして街の犬猫の様子を見に行き。



ユーリ達の来訪を知り待ち伏せていたフレンに誘われ。



更にその後をつけていたレイヴンが同行を申し入れ、この面子に落ち着いたのである。



ラピードはともかく、フレンとレイヴンについてはもちろん偶然だと思っているので、ユーリは戸惑うばかりである。
しばらく前、具体的にはカプワ・トリムに立ち寄った晩から、二人がよく衝突するようになったのをユーリは知っていたが、それについてもまさか原因が自分にあるとは思っていなかった。
そんなユーリであるから、互いを隠そうともしない攻撃的な目で睨み合う二人の間に挟まれて、いかにも居心地が悪そうだった。




「貴方はもう少し、空気が読める方だと思っていたんですけどね、レイヴンさん」
「あらぁ、どういう意味かしらねぇ、それ?」
「言葉にしないと判りませんか? 席を外して欲しい、と言っているのですよ」
「そりゃあ聞けないお願いだわよ、騎士のあんちゃん。狼の目の前に可愛い子羊ちゃんを残していくなんて、心配で出来るワケないでしょ?」
「よくもそんな白々しい台詞が言えますね。狼よりも鴉の方が、よほど性質が悪いと思いますが?」
「ホント、青臭い割りに口だけは達者ね、騎士団長さん」
「”代理”、ですよ。訂正させていただければ」




温厚なフレンと、気さくなレイヴンの、普段の会話からは感じたこともない棘のはらんだ言葉の応酬に、ユーリは口を挟むことも出来ず黙りこくっていることしか出来なかった。
ユーリも、二人が自分に執着心を持っているというところまでは悟っている。
しかし”何故”、フレンが―――あるいはレイヴンが―――自分がどちらかと特別親しくすることを嫌っているのかは、不幸なことに理解できなかった。



まあ、どちらも明白に気持ちを伝えたことがないのだから、仕方がないと言えば、そうなのかもしれないが。




「あの・・・・・・フレン? レイヴン? 前から思ってたけど、お前らなんでそんなに、」
「青年は気にしなくっていーのよぉ? ただこの騎士のあんちゃんが、ねっちねちした性格で面倒ってだーけ」
「この・・・・・・っ、なにを!」




言い切ることすら出来ずに言葉を押さえ込まれ、ユーリはがっくりと肩を落とす。
その際にレイヴンが腰に手を回しべたぁ、と張り付いてきたが、脱力しきりそれすらも止める気にならなかった。
しかしフレンの気にはこれ以上なく障ったようで、先ほどまでかろうじて笑みの形を保っていた表情が、一気に険しくなった。




「度が過ぎますよ、レイヴンさん・・・・・・僕のユーリに、あまりベタベタと触らないでいただけますか」
「”僕の”じゃないし、そもそもユーリを物扱いなんてされたんじゃ、たまんないわ」




ねーユーリ、とレイヴンがユーリを抱く手をますますと強める。
流石に道の往来ということもあって、ユーリが嫌がってレイヴンを制するが、もはやユーリの言葉は二人に届いていなかった。
ユーリは嘆息する。



何なんだこの状況は。



最近とみに、二人の胸裏が理解できない。



自分は散歩がしたかっただけの筈なのに。




「・・・・・・どうやら貴方と話していても、時間の無駄のようですね。行こう、ユーリ」
「時間の無駄ってのは認めるけどね、おっさんもユーリに用があるのよ。諦めてくれるかねぇ、フレン君」
「ユーリ?」
「青年?」




前と後ろから同時に問われ、ユーリは「え、え、」と視線を忙しく行き交わせる。
深い翡翠と碧の瞳に、言い逃れを許さない熱の篭った光を見つけ、ユーリが混乱する。



ユーリはフレンが好きだった。



物心ついた時から側にいて、そしてこれからもそうだと無条件に信じることが出来る唯一の人間。
ダングレストでは、彼の身代わりに死ぬことを覚悟をした。



ユーリはレイヴンが大切だった。



胡散臭いと言いながら、さり気なく優しさを滲ませる大きな手に、いつしか安心感を感じるようになっていた。
ヘラクレスで彼が生きている姿を見たときは、信じてもいなかった神に感謝した。



だから二人には仲良くして欲しかった。
もっと言うならば笑っていて欲しかった。



けれどどうやら、今二人は自分に関することで、意見を食い違えさせているらしい。
どうすれば良いのだろう。
今問われていることに、何と答えることが二人にとって最善なのだろうか。




「俺、俺は―――」
「おやめなさいよ。大の大人が二人も揃って呆れるわ。ユーリが困っているでしょう?」




ユーリがその後に何を続けようとしていたのかは、もはや本人にも判らない。
突然割り込んだ声にぎょっとして、三人が咄嗟に振り返る。



しとやかな声に確かな叱責を含んだそれは、もちろんジュディスのものだった。
ユーリが思わず、ほっとした表情を見せ、ジュディスはそれに僅かに微笑んで返した。
そうして、二人に向き直る。
レイヴンなどは先ほどの言葉で我に返ったのか、ようやくユーリから離れ、やりすぎた、と書かれた表情で詫びるように手を振っている。




「自分たちは何も明かしていないのに、ユーリにばかりそうやって選択を迫るのはずるいわ。判っているのでしょう、二人とも?」
「そうね、ホントよねぇ。ごめんね、ユーリ」
「・・・・・・うん、ちょっと、先走りすぎてしまったよ。今のは忘れてくれていいからね、ユーリ」




いがみ合っていたかと思えば、あっさりと先ほどまでの険しい表情を振り払い、良く判らない―――ユーリにとっては
―――謝罪を述べる二人に、ユーリはいよいよ困惑して、こくこくと惰性で頷くことしか出来なかった。
しかし二人にとってはそれで十分だったのか、あからさまにほっとした様子だ。




「何かよく判んねぇけど、ありがとなジュディス。助かったみたいだ」
「いいのよ、これくらい。―――それよりも、カロルたちが探していたわよ? 私はあなたを呼びに来たの」
「カロルが?」




そういや、出掛けるって言ってなかったな、とユーリが呟く。
行きましょう、と微笑み歩き出すジュディスにユーリは逡巡した後、くるりと振り返ってフレンとレイヴンの手を取った。
まさかそんな行動に出られるとも思っていなかった二人が、ぎょっとした顔でユーリを凝視する。




「あのな、俺は二人とも大切だと思ってるし、喧嘩とかしてるのは・・・・・・あんまり見たくない。原因が俺にあるなら、ちゃんと言って欲しい」
「ゆ・・・・・・」
「それじゃ」




それだけ伝えて、ユーリは振り返って待っていたジュディスに並ぶ。
レイヴンは詰めていた息をはぁ、と吐き出した。




「無用な心配を、させてしまいましたね・・・・・・」
「結局はジュディスちゃんに連れてかれちゃうし」
「貴方と関わると、本当に、ろくな事がありませんよ」
「そりゃこっちの台詞だっての」




しばらく無言で相手の瞳を探りあい、同時に「でも、」という言葉が続いた。




「ま、一応は目的を同じにしたライバルなワケだし? うん、もーちょっとだけ、歩み寄っても・・・・・・」
「そうですね、僕はやはり貴方が嫌いですが・・・・・・ユーリの前では、もう少し、」




仲良くしましょう。
尻すぼみになっていく言葉は、目を逸らされながらのものだった。



判っている。



判っている。



自分の感情をぶつけるべきなのは彼で、気持ちも伝えていないのに恋敵に嫉妬をするのはお門違いだ。
けれど・・・・・・。



碧と翡翠の視線が交差する。
それにはもう少し、時間がかかりそうだ。




















「はぁ。俺、あいつら怒らせるようなこと何かしたかな・・・・・・」
「さぁ、おじさまたちの考えてることは、よく判らないわね。そんな事よりユーリ、そこのカフェにでも入らない? 私、お腹が空いちゃったわ」
「あん? 別にいいけど、カロルが―――」
「少しくらい待たせちゃってもきっと許してくれるわ。カロルなら」
「えええええ」
「ほら、早く早く」
「え、ちょっと待、」



ユーリとジュディスの影は、人ごみに紛れ、小さなカフェへと消えていった―――。















―――――――――――――――
びっくりするほど取って付けたようなオチ!
続編をというお声を嬉しいことにリクエストして頂いたので、書いてみましたがとても残念な、結果、に・・・・・・
ジュディスを勝者にしようとして失敗して蛇足をつけたのがありありと分かる! ガッデム!
まあでも、前作もどっこいどっこいの残念さなのでもう・・・・・・(逃げた!)
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