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2009-11-18 20:21

言葉の裏に隠す意味


ジュディユリ。貴方に好きだと伝えたい。最後にちょっとレイヴン。


―――――――――――――――



望想の地オルニオン。
今、騎士とギルドが共存する唯一の街。



未来への希望に満ちたそこに、ユーリたち一行は立ち寄っていた。



カロルとパティは情報収集。



レイヴンはユニオン関係での徴集(半ば無理去りだったが)。



エステルとリタは消耗品の買出し―――と、久々の街ということで皆出かけてしまっている中、ジュディスはシャワーを浴びに行き、部屋にはユーリが残っていた。



ベッドの上でユーリは黙々と、武器の整備をしていた。
鋭い爪を思わせる篭手も外し、こびりついた油や血を拭き取る。
部屋の中は無音で、時折ユーリの手元から、小さな金属音が聞こえるのみであった。



ユーリは無心だった。



彼は武器というものと向き合うとき、自らの心を空っぽにするように心がけていた。
特に深い意味や信念などがある訳ではない。
ただ自然と、”そうすべきだ”と感じたからだ。



ユーリは光を受けて鈍く輝く刀身をしばし見つめ、ゆっくりと鞘に戻す。
そうして満足げに息を吐き、ふと時計を見上げた。



ずいぶん長い間、作業に没頭していたようだ。



ユーリが顔を上げるのを見計らったかのようなタイミングで、扉が開く。
真新しい木製の扉は実に滑らかで、軋み音の一つをあげることも無かった。




「ああ、気持ち良かった。あなたもどう?」
「んー、いや。俺は夜でいいよ」
「あら、そう?」




温まり、ほくほくとした様子でジュディスが言う。
髪はまだ生乾きのようだが、服は既にいつものものに着替えていた。
しっとりと水分をふくんだブルーラベンダーの髪が、彼女のくびれた腰をくすぐっている。
ジュディスがベッドに腰掛けた拍子に、ユーリの鼻を甘やかな香りがくすぐった。



最近、女性たちが帝都の雑貨屋で買っていた、あのピンクのシャンプーだろうか。




「なあに? そんなに熱心に見つめて。困っちゃうわ」
「とてもそうは見えないけど?」
「おかしいわねぇ」




このやり取りも、最近ではすっかりお馴染みになっていた。
くすくすと淑やかに笑うジュディスに、ユーリが肩をすくめる。




「ま、見てたっていうか・・・・・・やっぱジュディって、髪下ろすと結構長いんだなってさ。他意はねぇよ」
「それはそれで残念ね」
「・・・・・・どういう意味だよ」




返しながらユーリは立ち上がり、ジュディスがベッドに放り投げたタオルを取り上げた。
躊躇もなくジュディスに近づき、髪に残った水分を吸い取っていく。



驚いたジュディスが咄嗟に立ち上がろうとするが、ユーリに視線で制される。
その紫黒の瞳に何故だか逆らえなくて―――もしくは逆らいたくなくて、ジュディスは大人しく腰を落ち着けた。




「髪くらい、ちゃんと乾かせよ。痛むぞ」
「・・・・・・この方が、色っぽいでしょ?」
「阿呆か」




荒っぽい言葉遣いとは裏腹に、ユーリの手つきはどこまでも優しい。
ふかふかのタオルが、慎重にゆっくりと、髪を撫でていくのが心地良い。
その優しさに、ジュディスがそっと目を伏せる。
時折彼の長い指が、ジュディスの首をかすめた。
ぱさぱさと衣擦れの音だけが聞こえる部屋で、ゆっくりと時間が流れる。




「ほい、出来た。―――って、何笑ってんだ」




あらかた拭き終わり、薄く開いた窓から入った風で、ジュディスの髪が軽やかになびく。
完全に乾いたか確かめるために、ジュディスの髪を指ですくうように撫でたユーリが、その表情を見て顔をしかめた。
ジュディスが笑っていたのだ。



いつものあの、優雅な、どこか余裕のある微笑ではない。
顔をうつむけて、噛み締めるように笑っていたのだ。
見方によってはにやにやしているように、見えなくも無い。
このつかみ所の無いクリティアにとっては珍しい表情だった。




「・・・・・・つい、ね。嬉しくて」
「嬉しい? 髪拭かれるのがか?」




変わった趣味だな、とユーリが薄く笑う。
ジュディスはそんな彼を見上げた(立ち上がったとき、彼と彼女はほぼ同じ身長なので、これもまた珍しい)。
彼女は今、自分がどんな顔をしているか、恐らく判っていないだろう。
薄っすらと頬を染め、控えめに微笑むその顔を。



「・・・・・・ええ、もちろん―――」




ジュディスが、焦らすように言葉を切る。



最初は、ただおかしな人だと思った。



ヘルメス式魔導器を壊す自分の、行く先々で彼の姿を見た。



偶然と必然が重なって彼に協力し、旅を共にする事になった。



それから、彼の背中を守って戦える事に、同じ戦士として誇らしく思うようになった。



様々な出会いと、別れと、裏切りと経て、彼の”道”を知った。



今こうして、笑う彼を見て、私は―――・・・・・・。




「もちろんよ、ユーリ。・・・・・・貴方がしてくれることなら、何でも嬉しいもの」




言葉を受けて、ユーリがしばらく、きょとんとした顔で目を瞬いた。
ゆっくりと、時間をかけて飲み込む。
表情が徐々に、困ったような、笑っているような、戸惑っているような。
感情をない交ぜにした、複雑なものへと変わっていく。




「―――そう言ってくれるのは、嬉しいけど。いくらなんでも照れるな」




そういう台詞、あんまりほいほい使うなよ。
そう言って、ユーリは刀を左手に持ち、振り返ることなく部屋を出て行った。
鳴き声が聞こえたので、ラピードを伴っていったのだろう・・・・・・。















ほう、としばしベッドに座ったまま、ジュディスは物思いに耽った。
しばらくもしない内に、扉の外に唐突に、人の気配が生まれたことにジュディスが気付く。
警戒する必要は無い。
とても馴染みのある気配だ。




「・・・・・・盗み聞きは、あまり感心しないわね、おじさま。いつからそこに?」
「ジュディスちゃんが、青年を誘惑しだしてから」
「あら、そ」




聞いておきながら、ジュディスは興味無さげにそっぽを向いた。
レイヴンはさして気にした様子も無く、扉のすぐ横の壁にもたれかかる。




「フられちゃったわねぇ。残念」
「心外ね。フられたワケじゃないわ」




ツンとすまして、ジュディスが言う。
もう完璧に、いつものペースを取り戻しているようだ。




今の言葉も、彼女の本心から出ているものである。
―――ユーリはまだ、誰の手も取っているわけではない。



彼は怖がっている。
闇に続く道に立っている―――と信じている―――自分と、人とを隔てる最後の一線を、飛び越え”させて”しまうことを恐れている。



それだけだ。



それだけなのだ。




「悪いけど私、諦めが悪いの」
「そお? ま、頑張って。―――諦めが悪いのは、おっさんも同じだけど」
「ふふ、面白い冗談ね、それ」




目を細め、立ち上がる。
ようやく、立ち上がる。



結い上げていない長髪をかき上げ、手櫛でそれを後ろに流す。




「どこ行くの?」
「もちろん、彼の元へ」
「じゃ、おっさんもお供するわ」
「お好きにどうぞ」




ジュディスとレイヴンが意味深に目配せし、連れ立って部屋を出る。
作られたばかりの新しい扉は、やはり音も無く、閉まった。















―――――――――――――――
ジュディスとユーリの、あの大人の雰囲気漂う会話が超絶好きです。
あと、私的にユーリは、鈍いのもいいけど、そうじゃなくてちゃんと皆の気持ちを分かってて、でもそれを
いろいろ考えた末に受け取れない、っていうか、受け取る資格が無いって考えちゃう・・・・・・
みたいなのが希望なんですけど、伝わりにくいですね(汗)
それにしてもレイヴンでしゃばる!(笑)
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